luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

働かない蟻ばかり注目されているけど。社会的生物に関しての、生物学の総論も読める良書。

「働かないアリに意義がある」というタイトルのせいか、まるでフリーライダーにも意義があるような切り口で語る変な紹介もあったりする、本書。
ちなみに、昆虫の世界にもフリーライダーはいますが、その存在に意義があるかというとちょっと違って、それは明らかに「害*1」です。
タイトルの「働かないアリ」は、意志として働かない訳ではなく、働き出す際の「反応閾値」というものが個々で異なっていて、一見働かないように見えているのですが、状況が変わり、自己の「反応閾値」になると、普通に働き出すアリのことです。
別に怠けていることに意義があるわけではない*2ので、その点は注意。


社会的生物の場合、人間のように複雑な思考によって行動を決めているわけではないので、何らかの刺激に対する反応に、それぞれ異なる幅を持っています。
これらは継承する遺伝子によって、相違がでるわけなんですが、これが違うことによって、結果的に変化する状況に対応して、まるで集団が思考して対処量を変えているかのように、稼働率が変わるんですね。
それが、変化する状況にとてもよく対応している遺伝子モデルになっており、どうやら進化の適者生存の仕組みが効いて、そういうモデルが形成されているらしい*3
特定の遺伝子の集団を大切に守ることで、母親の系の遺伝子が保持されたり、戦略として特定の存在を守ると、特定の遺伝子を後世に伝えることに貢献していたり、なかなか面白い本です。


本書を読んで、にやっと笑ったのは、「働きアリの二割ほどはずっと働かない」の研究発表に対して、「この研究やった人暇だよね」と言われたのですが、実は「とてつもなくハードな実験&研究だった」の部分。
よく考えれば分かるのですが、ずっと働かないことを確認するのって、普通に考えても大変*4だと思うのですが。...実際にも、大変な研究らしく、体を壊しかけた人もいたりして。
まあ、他人がやっている仕事を知らないで、そう言っちゃう人*5って、どこにでもいるんですよね...。

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*1:その割合が増えると、社会的生物は自己の優位性を失い、その集団は消失します。ただし、環境の変化によってなどの理由で、フリーライダー存在しても社会が継続しているケースもあり、そこら辺は結構悩ましい話。←割合が少なく、簒奪が少ない場合には、フリーライダーが居ても集団は生き残る。

*2:ずっと働かないことは、特に意義は確認されていない。

*3:本書の文章にも出てきますが、遺伝子モデルは色々と出てくるのですが、ほとんど完全に解明された生物もあれば違うものもあります。また、これらの生物の挙動を説明する、ハミルトン則という理論が出てくるのですが、これは一見よく当てはまっているようであるが、実際にどうして成り立っているか、まではまだ証明されていません。p.91

*4:だって、行動をずっとトレースする必要あるんですよ。

*5:そういう人って、実際にどういう行為が必要で、実際に暇なスケジュールになるか、調べないと分からないはずなのに、無知な状態で、勝手な事言うんですよね...。