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luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

個人のプライバシー権について、判例などを元に解説する。

私は過去の記事『人の平穏なる生活を保障する、人権の大切な話。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』において、人権の憲法概念について、下記の内容を書いた。...自己記事なので、全文転載する。


さて、人権に関する資料としては『衆憲資第31 号 基本的人権と公共の福祉に関する基礎的資料 ―国家・共同体・家族・個人の関係の再構築の視点から― 基本的人権の保障に関する調査小委員会(平成15 年6 月5 日の参考資料)』に、とても良い資料があったので、引用する。

憲法において保障された権利を、社会全体の利益に還元できず、社会全体の利益に反してまでも保障されるべき、個人の自律的選択を保障する「人権」と、社会全体の利益を実現するという「政策」的な配慮のために保障された「憲法上の権利」とに区別した上で、前者を意味するものとして用いられることが多い。憲法によって保障された権利をこうした形で区別することによって、「人権」概念は実質的に限定されると同時に、たとえばメディアによる私人に対する名誉毀損やプライヴァシー侵害に関して、「表現の自由」対「プライヴァシー」といった形で憲法上等しい価値の間での選択を問題にするのではなく、メディアが有する表現の自由は「憲法上の権利」にすぎないのに対して、個人が有する名誉やプライヴァシーなどは「切り札」としての「人権」に属するという形で、後者の優先性を導き出すことが容易となる。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi031.pdf/$File/shukenshi031.pdf

国会の資料なので文がちょっと難しいが、要は、個人の名誉やプライバシーなどを「切り札」としての人権に属するものとし、社会全体の利益を実現するという「政策的」な憲法上の権利よりも優先している、という考え方となる。
つまり、社会全体の利益、つまり公益のためであっても、個人の名誉や、プライバシーはそれに優先されるべき、という考え方である。
例えば、『公共の場への「個人情報」の「晒し」行為』は、たとえ公共機関*1によるものや、マスコミ*2によるものであっても、それに優先して守られる個人のプライバシーを侵害するものであるから、制限される、と見るのが通常であろう。
勿論、公共機関でもなく、社会の広報的立場を担っているマスコミですらもない個人が、勝手な私憤で行う行為については、認められるはずもない。


...なお、元記事では職場への圧力行為もあったので、「職場への圧力については、上記概念を取り上げる必要すらなく、人の平穏なる生活の侵害であるから、一般法律論から言って、人権侵害行為となる公算が濃厚となる。」とも書いている。


これは、ほんの数ヶ月前の出来事。
さらに、今、類似事例があまりにも目立ち、さすがに看過できないと思ったので、現行の裁判での判例を基に、少し記事を書いてみることにした。
ちなみに、本人が隠している個人情報を暴き、それを公衆の目に触れる場に晒すのは、明確に法に触れます。
個人情報保護法などもあるが、その制約だけではなく、実際に平穏に暮らしたい個人の要求は認められうる*3ので、それを問われたら、行った行為の責任を取る必要が生じる。
それだけではなく、いわゆる「公開情報」に関しても、実際には民事賠償責任が生じる判例があります。それは、公開情報を目的外に使用した例です。
実際に賠償が認められている判例を紹介します。
あまり知られていないのかもしれないが、『第14回 個人情報保護 プライバシ侵害の危険性を知る | 日経 xTECH(クロステック)』より。

眼科医は、「プライバシを侵害された」として、個人情報を書き込んだ会員に損害賠償を求める訴訟を起こした。訴えられた会員は、「眼科医の氏名、職業、診療所の住所・電話番号はNTTの職業別電話帳に公表されている情報なので、プライバシの侵害には当たらない」、と主張して争った。

 裁判所は、「職業別電話帳に診療所の住所・電話番号を掲載したのは、営業目的のためであり、その情報を勝手に掲示板に書き込むのは、他人に知られたくない個人の私的な事柄をみだりに公開する行為でありプライバシ侵害に当たる」と判断。個人情報の書き込みを行った会員に対して、慰謝料20万円と診療費相当額の損害賠償をするよう命じた。(神戸地方裁判所1999年6月23日判決、判例時報1700号99頁)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080104/290465/

...公開情報であろうとも、個人が他人に知られたくない私的な事項として認められています。
ここで問題になるのは、電話帳に記載している目的です。これは「営業目的」、つまりはこの眼科医がお客さんに来てもらうために記載している目的であって、それ以外の行為のために記載してある訳ではない、という処です。
それ以外の「嫌がらせ」「粘着行為(つきまとい)」等は、本来の目的である「営業目的」から逸脱した内容を目的とするから、それを誘発した行為を咎められ、賠償を求められたわけです。
これは『公開情報もネットで流せば損害賠償責任が 神戸地裁 99年6月23日判決』にも解説があります。

裁判所は、いずれも原告側主張を認めた。判決のカギとなったのは「目的」と「手段」である。

 まずは「目的」。医師会名簿は、医師同士が連絡を取り合うなどの目的で個人情報を公開している。職業別電話帳は、一般市民が医院を見つけるという目的のために住所や電話番号を掲載している。ところがネットの会議室は、医学とは何の関係もないテーマを扱う場所だった。裁判所は、こうした場所(会議室)における個人情報の無断掲示/公開は、個人攻撃を目的としたものとしか判断できない、としたのである。

 さらに「手段」。「会議室に書き込む」という手段をとれば、「不特定多数の人の目に個人情報をさらす」ことになる。不特定多数の中には当然、悪意を持つ者も出るだろう。実際に原告は、悪意を持つネットワーカーによる被害を受けているのだ。

http://gold.rendan.net/monogatari9.htm

この裁判所の判例から学べるのは、例え公開情報であろうとも、それを総合的に調査して個人を特定したりする行為が、法の上で賠償すべき行為として取り扱われうること、また、不特定多数が見るような状態にすることも、同様に賠償すべき行為と認められうる、という事実です。
それ故に、本人から要請があれば、情報を削除する必要も生じるであろうし、当然ながら、民事賠償責任も生じる、という事になります。


なお、上記判例は純粋に個人に対しての話ですが、一般にプライバシーに関しての制限が緩いとされている芸能人に関しても、本人の意志に反しての情報公開は咎められるとされている判例があります。
解説記事が『松本人志の防犯カメラ画像流出事件について: 花水木法律事務所』にありますので、読んでください。
また、関連の内容ではありますが、防犯カメラなども実は無制限に取り付けられるわけではなく、適切な理由を必要とし、ちゃんとした管理を行わなければならない、という記事が『店舗に防犯カメラを設置運用する場合の法的問題点: 花水木法律事務所』にあります。...併せて読んでみてください。


どうでしょうか。...安易に、人の平穏な生活を脅かすと、裁判等で追及されうる、という事が分かっていただけたでしょうか?
個人の生活に関する情報は、基本的にプライバシー情報に属します。
例え、公開に準じる状態にされていたとしても、本人が願う目的以外に使用する事はできないのです。...その点に、十分留意していただきたいと思います。

関連リンク
人の平穏なる生活を保障する、人権の大切な話。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック
衆憲資第31 号 基本的人権と公共の福祉に関する基礎的資料 ―国家・共同体・家族・個人の関係の再構築の視点から― 基本的人権の保障に関する調査小委員会(平成15 年6 月5 日の参考資料)

第14回 個人情報保護 プライバシ侵害の危険性を知る | 日経 xTECH(クロステック)
公開情報もネットで流せば損害賠償責任が 神戸地裁 99年6月23日判決

松本人志の防犯カメラ画像流出事件について: 花水木法律事務所
店舗に防犯カメラを設置運用する場合の法的問題点: 花水木法律事務所

*1:社会の秩序管理を根拠とする。

*2:表現の自由の権利による。

*3:本人が違法行為を行ったりしているような特段の事情がない限り。また、そのような事態であっても、事情に応じた「公共法務機関の管理」がされるのであって、個人の暴走は許されない。