「ダウンカレント(下げ潮)と、命の重み。 〜かつての私の体験談に重ねて〜」
現在、事故調査委員会で調査中の事項である本件は、レスキュー時の曳航ボート転覆、そして行方不明者の発生という、非常に痛ましい事態を引き起こしている。本件の事故調査内容については、さらに細かくは語らない。が、本件について、少し思う事あったので、コメントする。暫くお付き合い願いたい。
私は水面下のスクーバ活動に、一時期、傾注していたことがある。今は引退状態だが、一時期は月に何度か海へ繰り出していた。
かなり幸運だったのかもしれない。私自身は海で大きな事故に直面する事はなく、三桁の経験本数ながら、悲しい思いをすることなく、良い思い出を残す事が出来た。あまり冒険的な行動方針ではない私だったが、しかし、事故の話を聞くと、必ず思い出す出来事がある。
あれは、夏の終わりだったか、とある沖合で、沖でドリフトダイビングのコース取りをした日の事。
元々、そのポイントは流れるのが特徴だったが、初期に流れに逆らう、基本的なセオリー通りにコース取りして、浮上に移ろうとした、その時に事件は起きた。浮上のサインを出し、みんなが浮上に移ろうとした時に、水深がなぜか増えていくのだ。少しずつだが確実に周囲が暗くなっていく。...何かがオカシイ。近くの水中の根に目をやり、それがゆっくりと上へ行くのを認めて、ダウンカレント、それも結構早い、という事に気がついた。
急いで、水中集合し、互いの肩を支え合い、スクーバジャケットに加減しつつ、エアを入れ、フィンキックをする。
...と、一人だけ、ほんの少し水深が深いだけなのに、段々下へ離れていくのがいる。一瞬、躊躇した。(この時間、一瞬のはずなのに、感覚では、凄い長い時間に感じられた。)だが、一瞬の躊躇の後に、拾い上げ、必死にキックして、仲間と合流し、幸運にも、ダウンカレントは長い間続かなかったので、暫くしてから、通常の浮上状態になり、キックせずに、ゆっくりな浮上速度を守って、水面に復帰することができた。
帰りのボート、実は膝ががくがくだった。一番経験本数が大きなのが私だったので、安心させるためにも、平静を装い、実は怖さを実感していない経験浅めなメンバーをさりげなく確認しつつ、港に帰りつき、一人になった時に、初めてへたり込んだ。
...実はとても怖かった。ダウンカレントは、出会わないように気をつけているとはいえ、潮の当たり具合によっては、根の状態や、海底の状態など、予想の範疇をはみ出して、発生する。
...実際、ダウンカレントがもっと激しかったり、バラけるメンバーが、もっと出たら、こうやって、ネットで書き込みなんかしておらず、今頃は墓石の下だった可能性だってある。いや、まだ墓石に埋まるのは良い方で、遺留品がスクーバジャケットだけとか、そういう場合だって、実際に事例として、ある。スクーバ潜水の場合、毎回、宣誓書(危険を認識していますの文書に確認サインをする)があるとはいえ、危険を毎回認識しているか、と言われれば嘘になろう。油断だってあったし、経験が三桁をこえる頃には、自惚れだって、多分あった。
が、今、こうやって生活できているのには、あのダウンカレントで胆を冷やした事が良い薬になった、と私は思っている。あの時に、メンバーを助ける時に躊躇した自分の暗黒面、メンバーを拾い上げた時の体の重みというより、相手の命の重み、それを忘れないでいたから、多分、今の自分がここに居られる、と思っている。自然環境に冒険に繰り出す方々に、一つだけ言っておきたい事がある。あまりカッコいい言い草ではないが、自然は怖いという事、また、予想したつもりで、予想範疇を簡単に越えると言う事。また、越えた時に、必死でフォローしないと、悲しい出来事が起きると言う事。
その点だけは、決して忘れないでほしい。
もちろん、気をつければ、まったく事故が起きない、なんて嘘だ。それこそ、ゼロリスク。いつかは誰かが犠牲になる。
しかし、それは真摯に、気を使った結果の、できるだけ配慮をした結果であってほしいと、私は思うのだ。ちなみに、私が医療にゼロリスクを求めないのは、ある意味、こういった私の原体験があるからかも知れない。
http://d.hatena.ne.jp/hascup_jr/20100621#c
人はいつか死ぬもの。スクーバ潜水では、結構、それを思い知る体験をする事がある。私は、幸運だったのか、不運だったのか、それは分からないと思う...。
要救助者の際には、救助できるかどうかを判定できる事が、二次災害を防ぎますが、現場の判断ではなかなか迷うものです。
一人だけバラけるケースは、距離があまりなかったから、助けに行けましたが。見捨てる判断をする場面にならなくて良かった、と心底、思いました。
勿論、水中集合した理由は、バラけたらフォローできないからですね。 > ダウンカレント中私のナイフは長い。水中拘束時には刃はあまり役に立たない事も多いので、刃のない奴を選んでます。
なお、水中での圧搾空気呼吸者なんて、あまりも不自然な存在ではあります。故に、意識して呼吸することが第一原則。第二原則は、減圧症発生しないため、浮上速度をコントロールすること。第三、潜水計画を守る事。第四、安全を見込んだ潜水計画を立てる事。最後に、危険を感じたら潜らない事。*1
http://d.hatena.ne.jp/hascup_jr/20100621#c
参考リンク