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婚姻、夫婦の姓と戸籍を考える(2)。 子の親とは。〜嫡出推定〜

婚姻、夫婦の姓と戸籍を考える(1)。 戸籍の始まり。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック の続き。
今回は、前回に少し触れた、子供の親の推定について、詳しく追っていきます。...本題に入る前に、前回で触れた事実婚の子供の場合の、親の推定について、簡易にまとめておきますね。

非嫡出子(法律婚によらない子供)の推定、前回内容のまとめ

事実婚の子供*1は「非嫡出子」となります。下記のように取り扱われます。

(1) 分娩の事実を示した後に、母親と子供の戸籍が新設されます。
(2) 子供の姓は、母親の姓になります。
(3) 民法779条に関わらず、母親の分娩事実のみを以って、母子の親子関係を認めることが出来る旨の判例があります。
  (昭和35(オ)1189 親子関係存在確認請求 昭和37年4月27日 最高裁判所第二小法廷)
(4) 法律上の婚姻関係が確認できないため、そのままでは母子の戸籍に父親は載らず、親権も母親のみです。
(5) 父親は子供の認知を行う事で、母子の戸籍に、父親の事実を記載することが出来ます。
(6) 先日のブログ記事では、特に強調しませんでしたが、父親が認知しても、子の姓が変わったり、父親も親権を持ったりする状態に、当然にはなりません*2

法律婚の嫡出推定

法律婚のように、婚姻の事実が明記され、戸籍も普通に記載されている場合*3には、子供が生まれた時には、母親の推定はもちろん、父親も法律上の婚姻関係による子供と推定されて、両親の子供として戸籍に記載されます。民法 より、

   第三章 親子

    第一節 実子

                                                              
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

法律婚の子供の推定については「嫡出推定」と言い、通常は、遺伝的な親子関係とは無関係に、親子関係を推定します*4
親子関係が事実関係と一致していれば、特に問題は起きないのですが、いわゆる外観的な判断*5のために、実際の事実と違う状態になる事があり得るのです。
もし、夫の子ともではない事実が明らかな場合、夫は「子の出生を知った時から1年以内」であれば、嫡出否認の手続き*6を行うことが出来ます。
関連条文は、民法 より、以下の通り。

(嫡出の否認)
第七百七十四条  第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条  前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

(嫡出の承認)
第七百七十六条  夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。

(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条  嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

嫡出否認以外の方法としては、裁判手続きによるものがあり、親子関係不存在確認の手続き、調整認知の手続きもあります。何れも、最初に調停が行われ、不調の場合には人事訴訟になります。
ただし、この裁判に対しても外観説が及んでいます。「最高裁判所第一小法廷 平成26年7月17日判決」の判決文の言い方を引用しますが、「法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合」に、嫡出推定を否定できる、としています。
この裁判の判決文については、過去の記事で扱っているので、判例分析 親子関係不存在確認請求事件の反対意見は、外観説の否定ではない。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック判例掲載、平成24(受)1402 親子関係不存在確認請求事件 最高裁判所第一小法廷 平成26年7月17日判決 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック あたりを見てください。
もっとも、出生直後に、実際の親子関係が婚姻関係とは別である事が明らかな場合には、出生届の段階で、医学的な資料を提示する事によって、子供の戸籍を正しく記載する事も可能です。
一般的に、それは離婚時に行われ、母親は婚姻時の戸籍を脱しています。特段の問題が無ければ、子供が母親の戸籍に入る事*7になります*8
最後に挙げた手続き、つまりは出生時に、正しい親子関係を示す医学資料を提示して、子供の戸籍情報を遺伝的にも正しいものとする、というのが、それを行えない事情が無い限りに於いては、一番平和的、かつ正確な親子関係を提示できる手続きだと思います。
何故かと言うと、嫡出否認の手続きや、親子関係不存在確認の手続き、強制認知の手続きは、一度親子関係が戸籍上に記載され、実際の親子関係的な生活が生じた後での手続きとなるため、社会的な家庭保護の見地から、国が、その手続き上生じた法的な関係を、保持しようとしているからです。
法務省:民法772条(嫡出推定制度)及び無戸籍児を戸籍に記載するための手続等について より、

嫡出推定制度は,民法772条による嫡出推定が及ぶ子については,父と推定される者のみが,子の出生を知って1年以内に限り,嫡出否認の訴えを提起することができるものとすることにより,その後は,血縁関係の有無に関わりなく,誰も法律上の父子関係を否定することができないものとすることによって,法律上の父子関係を早期に確定するとともに,家庭のプライバシーを守りながら家庭の平和を尊重し,子の福祉を図ろうとする制度です。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji175.html


近年、上記の嫡出推定の制度は、法律婚が抱える、実態上の離婚状態での婚姻継続や、それから脱しても法律婚を継続していた際の、法制度上抱える問題が露呈しています。その状態を誘因として、無戸籍児が出現してしまっている等、多くの問題が発生しています。まさに、その問題を扱った、法務省:民法772条(嫡出推定制度)及び無戸籍児を戸籍に記載するための手続等について というページもあります。興味のある方は、上記のページを見てください。


今日は長くなってしまったので、ここら辺で止めますね。また後日、続きを記載します。何か意見、見つけた「参考資料」等、がありましたら、twitter の私のアカウントなどでお聞きします。

連絡先: [twitter:@rt_luckdragon]

*1:法律の届け出がなく、婚姻の事実を、書類によって確認する事ができない両親の子供。

*2:そうするための手続きがありますが、本欄では解説せずに、後日触れる事にします。

*3:婚姻が継続状態にある。

*4:何でそうするか、と言うと、戸籍登録係は、その家庭の事情を知ることが、容易には出来ないからです。だから、嫡出推定を否定しなければならない際には、資料を必要とするのです。

*5:一般的に外見的事実があれば、それに従った判断を下す。

*6:調停前置主義のため、まずは調停が行われます。調停で当事者の話し合いが不成立になった場合には、公開の場で争われる人事訴訟になります。

*7:離婚後に、その子の父親と再婚し、一緒の戸籍になっている事もあり得る。その時も、子供がその戸籍に入る事は、特に問題は起きない、と思われます。

*8:離婚していなかった場合、「嫡出推定が及んでいるのに、遺伝的にはそれと違う遺伝子上の父親が存在している場合」に、「嫡出推定を否定するような戸籍手続きを行おうとしたら、どうなるか」は、事例が無かったので、分かりませんでした。これについては、もし事例を知っている人が居ましたら、教えてください。