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婚姻、夫婦の姓と戸籍を考える(1)。 戸籍の始まり。

先日、結婚の選択的別姓の話、入籍にまつわる事実婚の話とかは、今後取り上げる予定。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック で予告していた通り、今後、夫婦の姓(氏)についての記事をお送りしていきます。
今回は、その初歩知識として、人の戸籍がどうやって始まるのか、法律婚事実婚を例に挙げて、出産まで、追ってみます。なお、出生に関しては実子の推定、認知などの概念が出てきます。これも、難し過ぎない範囲で、最近の判例などを挙げて順に説明して行こうと思います*1。ただし、今回の記事の範囲では、さわり、くらいになってしまいますね...。

法律婚 婚姻届による「新戸籍」と、それ以外。

法律婚、つまりは婚姻を「婚姻と認められる事実関係のみ、によって主張する事実婚ではなく、法律上もそれを主張する届けによってする婚姻」とする場合から説明します。
最初から説明が長いですが、これは事実婚が存在するために、それと対比する表現に直してみたからです。要するに「婚姻届け」による、婚姻関係の開始です。
ところで、まさにこの時に、夫婦の姓の問題が発生します。民法 に、下記の条文が存在するからです。

(夫婦の氏)
第七百五十条  夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

また、戸籍法 にあるのですが、書き方は下記のとおりです。

第十四条  氏名を記載するには、左の順序による。
  第一 夫婦が、夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻
第二 配偶者
第三 子
○2  子の間では、出生の前後による。
(後略)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html

つまり、現行法では、夫婦は婚姻届を出して、戸籍を変更する際には、夫、もしくは妻の氏を称する事を決定してから、という事になります。法律上は、どちらでも良いのですが、日本の婚姻の場合、大部分が夫の姓になり、その際に妻の方に過度の負担を掛けているのではないか、という話があります*2
私は、とある方が自らの改姓に言及した時*3に、現状の法律手続き状況は良く知っていたので、選択制夫婦別姓に言及したのですが、ご本人の状況を正確に確認した訳ではないので、的外れの事を言ってしまったのか、気になっています。
以降に説明するのですが、実は、それぞれの条件によって、戸籍が作成される状況は変わります。


法律婚の場合には、婚姻届を出すと、どちらの氏を選択したかによって、筆頭者が選ばれた、新戸籍が作られます。夫姓の場合には夫が筆頭者、妻姓の場合には、妻が筆頭者です。配偶者が次になりますので、姓を改姓する配偶者が次に記されます。
ちなみに、子供が生まれると、さらに追記されますが、特に何も法律手続きをしないのであれば、法律婚の実子は選んだ姓としての子供の名前になります。つまり、現行の法律婚の場合には、婚姻した時に、子供の姓も自動的に決まります。勿論、婚姻関係が継続していた場合に限られますが*4
ところで、この章のタイトルに『婚姻届による「新戸籍」と、それ以外』とあったのを奇異に感じた人が居るかもしれません。実は、婚姻届では新戸籍がつくられるのが一般的ではありますが、それ以外のケースもあり得ます。どういうケースか、条文を引きますね。
戸籍法 にあります。

第十六条  婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
○2  前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html

通常の場合は、夫、妻、共に誰かの戸籍に入っている場合が多い*5のですが、何らかの理由で、本人が筆頭者の戸籍に入っている場合があり、その方の姓を称する場合には、新たに戸籍を作らずに、その人の戸籍に入る形になります。まあ、新たに戸籍を作らないだけで、出来た戸籍は、新たに作った場合と異なる事はありませんが。
...と、ここまでが法律婚の場合です。では、事実婚の場合はどうなるでしょうか。

事実婚 婚姻事実による婚姻関係、よって戸籍は作られない。でも、出産の時は?

意識して事実婚になっている場合、法律上の婚姻届を何らかの事情で出さずに婚姻関係にある場合、色々な事情はあると思いますが、事実婚の場合には、戸籍の記載は特に変わりません。よって、現行法の下でも夫婦で別姓であることが出来る訳です。
ちなみに、そのまま住民票も同居の形で申請できるようなので、周囲が法律婚と同様に扱っていれば、その限りに於いては特に問題は起きないでしょう。当初は...、ね。
最初の試練は、多分、出産だと思われます。実際に事実婚をしている人も、出産の時には、その前に婚姻届を出すこともあるようです。それは何故か。


実際に婚姻届を出さずに、出産を迎えると、どうなるかを解説します。
戸籍法 より。

第十七条  戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者以外の者がこれと同一の氏を称する子又は養子を有するに至つたときは、その者について新戸籍を編製する。

第十八条  父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る。
○2  前項の場合を除く外、父の氏を称する子は、父の戸籍に入り、母の氏を称する子は、母の戸籍に入る。
○3  養子は、養親の戸籍に入る。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html

上記の内容により、子の出産によって、親となった者と、その子による、新戸籍が作られます。
ところで、別姓のままなので、作られる戸籍がどうなるか分からない人も居るかもしれません。が、ちゃんと明確に決まっていて、母親が既に入っている戸籍を離脱して新戸籍を作り、子供共に、その戸籍にはいる事になります。父親の方は変わりません。
何で、そうなるか、というと、親子関係の推定が関係します。婚姻関係によらない子供の場会*6、子供は非摘出子になります。さらに、親の推定で、即時に明確になるのは母親のみなので、そういう手続きになるのです。
実は 民法 に、下記条文が存在しますが、

(認知)
第七百七十九条  嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

実際には、判例によって、母親の認知は不要とされています。
昭和35(オ)1189 親子関係存在確認請求 昭和37年4月27日 最高裁判所第二小法廷 より、

母と非嫡出子間の親子関係と認知

裁判要旨
母と非嫡出子間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57715

この事により、そのまま、何の手続きも取らなければ、親子関係は母親との間のみで存在し、父親不在の状態になります。実際には認知を行えば、子供の父親の認定がされ、母親の戸籍に、父親も記載されることになります。ちなみに、母親が筆頭者なので、非嫡出子の姓は母親の姓になります。
実際には、それぞれの手続きを怠りなく済ませれば、法律婚によらない子供の場合にも、非嫡出子である事を除けば、普通に戸籍がつくられますが、母親が筆頭者であったり*7、手続き上で何らかのトラブル*8が発生した場合に問題となる、と不安要素を抱えている事があり、また、結局の処、事実婚の場合には、子供が非摘出子であると記載されてしまうのは、現行法では避ける事が出来ないため、そこの部分を嫌って、出産の直前の短期間であっても、婚姻届を出して、法律婚に移行する方も多いようです。


今回は、法律婚と、事実婚の戸籍、姓の取り扱いを、子供の出産までを題材にざっと説明しました。
今後も、夫婦間の選択制別姓に関する意見など、今回書ききれていない内容について、記事を書いていく予定です。何か意見がありましたら、twitter の私のアカウントなどでお聞きします。

連絡先: [twitter:@rt_luckdragon]

*1:遺伝的な両親と、実際に婚姻していた両親の扱いなども出てきます。

*2:なお、妻の姓に変える夫も同様ですが、議論が複雑になるので、ここではそこまでは論じません。選択制夫婦別姓では、この夫も救済されることになりますね。

*3:正確には、自らの姓の維持に言及した時。私は通称の維持を考えたのですが、もしかしたら戸籍の話だったのかも知れません。もし、そうだったら、結構重要な問題が発生します。後述していますが。

*4:変わっていた場合には、色々なバリエーションが考えられますが、今回は触れません。

*5:普通は自分の親の戸籍でしょう。

*6:事実上の婚姻関係でも、法律上の婚姻関係でなければ、そうなってしまいます。

*7:私個人は母親が筆頭者であっても、特に気にしないと思いますが、世間にはそれを良く思わない人たちが居るようです。非嫡出子の相続割合が、嫡出子と同等となった時に、酷い事を言っていた政治家が居ませんでしたか?

*8:人間関係ですので、どこで何があるかは分かりません。実際の法律婚の夫婦であっても、色々ある訳ですから、事実関係のみを根拠とした、事実婚の場合には、そこの部分が弱い故に、いったん何かが崩れだすと、保証する基盤が脆弱だったりします。