luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

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舟を編む。それは、辞書編纂の長く辛い物語。〜人は案外、言葉を説明できない。〜

私は認知科学、それも認知心理学が元々の専門でした。ですから、人の言葉が、その事象の TPO に合わせて判断されているのも知っています。そして、実は言葉は案外、人によって概念が異なり*1、また、時代によって意味が揺れる、というのを知っています。
人は言葉を使いながら、実は言葉の意味は我流で覚えており、実はその言葉を、なかなか他人に説明できないんですよね。それ故に、自分が説明したことは案外、人に伝わっていない。故に、相手との長い会話が、実は理解のために必須です。
とても当たり前のことですが、でも、案外意識しないから、平気で相手の気持ちや、言葉の表現を分かったつもりになり、相手の気持ちを足で踏みつけて平気だったりするのですよね...。
その、困難な、日常使われる言葉の意味を伝える、辞書編纂という仕事を映画にしたのが、本作です。やっぱり、とても大変ですね。かつ、とても意義がある仕事だと思います。思った通り、長く辛く地味で、でも、結構発想の自由さ*2も必要な作業です。 後、結構、暑い、情熱も必要な仕事なんですね。私も認知科学で、言語構造とか、意味概念とかを扱ったので、非常に興味深く観れました。
今回は、ネタバレはしていないと思いますので、皆さんも、良かったら観てください。
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*1:学習の際には、その人生体験のシチュエーションによって意味を覚えるため、人によって言葉の、自分の脳内のイメージ付けが異なる。また、再学習も同様のため。人は辞書を引いて、言葉を学習する訳ではないので。その意味で、言葉は、まさに生きているのです。

*2:語釈は、その辞書の独自表現でもある。