luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

インドじゃないよ。日本だよ(ここも発生源の一つ)。

https://aspara.asahi.com/blog/border/entry/2zGKcCpH1Eより
なんでインドの新型耐性菌の話が立ち消えになってるんだ、とか言っている方がいたので。
まず結論から。

日本において、このニューデリー型はどれくらいインパクトがあると言えるでしょうか? もちろん、私たち医療者は、薬剤耐性の拡がりに注意深くあるべきですが、欧米ほどのインパクトはないと私は思います。

というのは、日本ではカルバペネム耐性の病原菌なんて、ぜ〜んぜん珍しくないからです。院内感染対策やっている医者に言わせれば、日常的と言ってもいいくらいです。なぜかと言うと、日本ほど抗生物質が乱用されている国も珍しいからかもしれませんね。

日本は医療費も安いし、使える薬もたくさんあります。そうなるとですね、「効果は狭くても安い薬から」というインセンティブが働きにくいんでしょうね。最初から、がっちりカルバペネムを使うお医者さんが日本にはたくさんいます。滅多に空振りしないので、患者さんからも感謝されます。

先日、私の長男が中耳炎になって、近所の耳鼻科の先生を受診しました。もらってきた薬が、これが何とカルバペネムの内服薬でした。「おぉ、5歳児にカルバペネムかぁ」と感動しました。生来健康な幼児にだってカルバペネムから治療をはじめる。世界では「最後の一手」かもしれませんが、日本では「最初の一手」というのが実情です。ですから、日本ではカルバペネム耐性がすでに拡がってるんです(J.Clin.Microbiol.34(12):2909,1996)。

ランセットの論文を引用して、「いやぁインドは怖い。日本にも入ってこなければいいなぁ」と、あたかも自分たちが欧米側にいるように感想をもたれた方がいるかもしれません。でも、私たちが利用している日本の医療は、世界に耐性菌をばら撒きかねない側にいるのですよ。

https://aspara.asahi.com/blog/border/entry/2zGKcCpH1E

まあ、要は日本こそ耐性菌が発生しかねない環境であり、そして、それ故に耐性菌がいざ発生した際の把握と管理が必要だという事ですね。
でも、対策にはお金が必要で、その予算ははっきりいって充足しているとは言い難く、またその体制も必ずしも厚生労働省側としても推進しているとは言い難い状況にありました。
これから、状況を把握し、対策を立てるのだろうと思いますが、焦らずに総合的に抗生物質の使用基準や、使用したら最後まで使ってもらう事*1なども含め、基準を立てていただきたいと思います。
また、この対策費自体は、単純に病院の経費であり、現在のところ、患者や健康保険側からの出費は行われていないようなのですから、そういった側からの、何らかの補填が可能かどうかも考えてみるべきでしょうね。
何故なら、耐性菌の発生が、結局は患者の症状の悪化*2につながっていく訳ですから。

*1:耐性菌は中途半端に使って、菌が死滅しきらず復活するような事でも起きます。その遺伝子を持った菌が死滅する事態では、耐性菌の伝播は起きないのですから。

*2:抗生物質が効かない菌が増えていく訳ですから。耐性菌が重篤に繋がる患者のみの問題でもない。そういった発生を促す環境の状況が問題。