よく反医療主義の人が、ワクチンが無い方が健康的な生活がおくれる、みたいな俺様理論を振りかざしていたりします。ワクチンの社会防疫の考えから言っても、この考えは明らかに誤りなのですが。
実例を挙げましょう。
アーミッシュは科学的な生活から距離を置いた集団である事は、それなりに知られていると思います。反ワクチン主義の方が「アーミッシュには感染症なんてない」と主張したりもします。
しかし、事実を調べると、実情は逆である事に気づきます。
近年、アメリカ合衆国は麻疹に対して、「麻疹排除を達成した」事になっていました。しかし、この成果はとある要素によって、危機を迎える事になります。それはワクチン非接種者による、輸入麻疹の問題です。
海外の麻疹の状況―2014年のWPR、EUR、AMRの状況
米国の2013年、2014年の報告数は188例→644例で、2014年は2013年のおよそ3倍増となった。2014年は23件の流行があり、特に大きな流行は、オハイオ州のアーミッシュの共同体において発生した383例であった。１〜4月までのレポート6)*1によると、罹患者は18州から報告され、90％がワクチン未接種、または接種歴が不明で、年齢層は、20歳以上が52％、5〜19歳が25％、1〜4歳が17％、1歳未満は6％であった。検出されたウイルスの遺伝子型はB3型、D9型、D8型、H1型で、海外渡航者を介して18カ国から持ち込まれ、B3型については、フィリピンとの関連が明らかになっている。米国では、本年に入ってからもカリフォルニア州のアミューズメントパークからの麻疹流行が問題になっている。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2306-iasr/related-articles/related-articles-422/5641-dj4229.html
Amish Seek Measles Shots After Ohio Outbreak Sickens 15 - NBC News
The outbreak was detected this week when four unvaccinated Amish community members showed evidence of measles infection following a March trip to the Philippines to offer humanitarian aid to typhoon victims. More than 20,000 people have caught measles in the Philippines and at least 50 have died in a severe ongoing outbreak.
http://www.nbcnews.com/health/health-news/amish-seek-measles-shots-after-ohio-outbreak-sickens-15-n89221
Measles Outbreak In Ohio Leads Amish To Reconsider Vaccines : Shots - Health News : NPR
The largest outbreak of measles in recent U.S. history is underway. Ohio has the majority of these cases ― 341 confirmed and eight hospitalizations. The virus has spread quickly among the largely unvaccinated Amish communities in the center of the state.
http://www.npr.org/sections/health-shots/2014/06/24/323702892/measles-outbreak-in-ohio-leads-amish-to-reconsider-vaccines
遺伝子型からの類推もされているので、ほぼ確実だと思われるのですが、オハイオ州で起きた大流行の源は、フィリピンの台風支援に行った、ワクチン非接種者が原因とみられています。
行動に至った精神は称賛されるべきものでしたが、自身の感染症への防御姿勢が、フィリピンで流行していた麻疹への感染と、他者への波及感染をもたらし、さらに自身以外の社会、つまりアメリカの基盤社会への波及ももたらしてしまったのは、とても皮肉な事です。
ただ、ワクチンの接種自体は、アーミッシュの精神に反する事ではないようなので、危機を感じたアーミッシュの人々は、ワクチン接種に行動をシフトしています。勿論、集団の中では、抵抗感を抱いている人も少なく無いようではありますが、少なくともそこの部分に関しては、反ワクチン主義の方とは違い、アーミッシュの人の方が現実を見据えている、という事でしょう。
実際、麻疹に関してはあまりに簡単に感染しますし、感染力も物凄いものがありますので、これに対するワクチンを接種しないなんてのは、あまりに非現実的だと思いますが。
元々のアメリカでもそうだったのですが、麻疹による死亡例が少ないのは、元々ワクチンにより社会的防疫の対策が取られていたせいであり、それにより麻疹の流行がおきないように対策された結果なので、ワクチン接種を止めたら、容易に大流行が復活します。
アーミッシュのワクチン非接種層が、フィリピンの麻疹流行地域からの麻疹流行をもたらし、ワクチン非接種の社会が何を引き起こすのか、を現実の例として示してくれたのは、悲劇ではありましたが、重要な教訓です。
それは、「ワクチンを拒絶した社会がどうなるか。」への明確な答えです。答えは、「その社会に侵入した感染症によって、その社会に大流行が起こる」という事なのですね。
