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「DV行為者は、結婚前に総て、冗談で肉体的攻撃の振りを見せる」は、真の命題か。

あくまでも、心理的な分析であり、実際の現状としては、ある程度は肯定できる内容であると思う。
しかし、安易にこの命題を真とすると、色々危険な思考を呼ぶことも確かである。本日は心理的な面から、「この命題が真にならない部分」について述べておきたい。
冒頭にわざわざ書いているように、本記事は懐疑論なので、この論の正しさを信じたい人は読まない方が良いです。信念ではなく、論理的な分析を読みたい人だけ、お読みください。


DV被害者が語る結婚前に相手が見せた前兆とは「冗談で〇〇のふりをしていた」 - Togetterまとめ より。

昔、配偶者にDVを受けていた女性たちが被害について語っているページを見た。そこでは、結婚前にDVをする相手だと見破る方法はなかったのか?DVの前兆はあったか?という話がされていた。そこで全員に一致していた特徴がひとつあった。それは、「冗談として<殴るフリ>をする」というものだった

http://togetter.com/li/980808

@offtw8 全員が全員そうとは言えない。だけど「冗談として」失礼な言動をとる人には注意する。
冗談で馬鹿にする
冗談で意地悪をする
心根が良心的でやさしい人は、わざわざ他人を傷つけるような「冗談」はしなかった。もし失礼なことを言われたら「いやだ」を伝え、離れる勇気もつ。

実は、初っ端でこの命題破綻してます。
「そこで全員に一致していた特徴がひとつあった。」と言いつつ、「全員が全員そうとは言えない。」って言ってます。
...どっちだよ?
なので、本人の発言の意味は気にせず、「DV行為者は、結婚前に総て、冗談で肉体的攻撃の振りを見せる」という命題として定義し、これについて考えて行きたいと思います。
本人の発言の真意について議論している訳では無い事に注意してください。

本命題の危険性(1) 偽記憶に無配慮である。

この命題、既にDV行為を受けた人が、過去の相手の言動をチェックしているという内容です。つまりは、自分の過去の記憶をたどっている訳です。という事は記憶が正確である必要性がありますが、記憶が嘘をつかないというのは偽です。
面白いページを紹介します。基礎として知っておきたいこと「記憶編」というページです。色々な記憶の話が載っていますが、少し引用しますと、こんな処でしょうか。

レコーダーのようにはいかない記憶

これまで紹介してきたように、人間の記憶というのはレコーダーのように正確なものとは異なります。普段から見慣れているものでも思い出せないことがあったり、何か情報を与えられると、それにつられて記憶が歪められたりしてしまうこともあります。また、ときには実際に無かったものを「思い出して」しまうことさえあります。

http://www.nazotoki.com/step2.html

残念ながら、人の過去の記憶は本人によって意識、無意識に関わらず歪められています。
という事は、命題「DV行為者は、結婚前に総て、冗談で肉体的攻撃の振りを見せる」が提示された事によって、その情報から偽記憶を創りだしてしまう可能性は十二分にあります。なにぜ、相手は自分にDV行為を与えた憎むべき人間であり、そうする動機は十二分にあるのですから。
この事例で有名な事件が、海外で起きていますよね。幼児虐待を主張した内容が、実は作られた偽記憶だった、という事件*1です。
自分の偽記憶を正しく検証できない、つまりは客観的な証拠*2が提示できないのであれば、過去の自分の記憶を盲信するのは危険です。

本命題の危険性(2) 過去の行為は、そう意図されたものか。

本命題が正しいためには、過去の「振り」が、冗談めかされたものであるにせよ、DVの意味を持つものでなければなりません。もし、その行動が、その時代に本当に流行したジョークで、それが一般的になっていて、ついそれに触発されたものであった、つまり本人にDVの意図が無かった、という事であってはなりません。
ここでちょっと気になるのは、過去にDV行為があまり意識されていなかった、という時代背景です。
過去の亭主関白やら、かかあ殿下は多分、DVの認識はされていなかったでしょうが、今は違います。また、過去の夫婦喧嘩は、今ではDV行為と認識されますが、過去ではそうであったのか、という疑問がわきます。
そういった時代背景を背に、本当に過去時点での「振り」が、相手を支配する行為として認識され得る*3か、少々疑問がわきます。
今でこそ、そのような行為は、相手を支配させる意図を感じさせますが、過去の「振り」に、それが無かったとしたら、どうでしょうか。
人は流行から触発される行為を、意図せずに行ったりもしますが、その考慮はしないのでしょうか。

本命題の危険性(3) DV行為者は、総て先天性属性なのか。

本命題以外でも、良く出てくる属性です。犯罪者が犯罪を行うと、過去の何かの事件から兆候を言う人が必ず出ます。
行為の前兆があった、と明言しているという事は、つまりは先天性の性格の属性が存在し、それが変化していない事を示します。総てのDV行為者にそれがあった、という事は、以前にはDV的な素養は無かったのに、何らかの因子からDVに至る経路は無い、という事になります。
これは、にわかに信じがたいです。
それは何故かというと、過去の心理実験を知っているからです。
ここで例に引くのは「スタンフォード監獄実験」「ミルグラム実験」です。この実験を知らない人は調べてみてください。人は特定の役割を与えられる状況におかれると、その状況になかなか抗えない、という実験ですね。
で、ここで考えて見て欲しいのですが、結婚生活での二人の状況はまったく変化しなかったのですか?
互いにどちらかを服従させ得る周囲状況は発生しなかったのでしょうか。そして、その状況下で、互いを支配させ得る行動は行われなかったのでしょうか。


私は、実はそこで、そういった行為が行われた事実はあったのではないか、と思っています。実は、今DV行為が発生していない認識の二人であっても、過去のどこかの過程で、そういう行為は存在し得た、と。
また逆に、DV行為が発生している間柄であっても、最初から、そういう行為が存在していた間柄でのみ、その状態になる、というのは真ではないと考えます。それは、二人の関係がまったく変化しない事が前提となりますから。
...それはあり得ないと考えます。

重要なのは命題ではなく、現在の努力では?

ここまで述べてきたのは、あくまで私の私論に過ぎませんが、私は固定的にDV行為者が居て、その行為者によって被害者が発生する、という考え方には否定的です。
勿論、そういう性格が固着した人間も存在するでしょうが、その考え方は、人間が自己成長し、その欠点を克服する、という点を無視しています。
また、常にそういう人間が居て、その人間によって一方的にDVが発生する、という考えであり、互いの人間関係が、そういった関係を生んでいってしまう、という相互関係への考察が、まったく無いのが気になります。


私自身は、互いの関係性に於いて、二人の関係を支配的にしようとする内容は、常に存在し続けているのであり、それへの誘惑は、男女関係なく存在し続けていると考えています。
重要なのは今現在、「互いを支配しようとする悪魔の囁き」に耳を貸さない事であり、それには他人や相手の行為を見定め、値踏みするだけでなく、「自分がその行為に染まっていないか」について、正しく検証し、自分自身の心と向き合う、事だと考えています。


余談ではありますが、私は男性ですが、互いの関係に於いて、支配的になろうとする女性の心理的な攻撃、案外経験していますよ。
つまりは、女性によるDV行為がごく普通にあり得るという事を、普通に経験しています。

*1:代表的なのは「ポール・イングラム事件」

*2:他人の証言も、自分からの情報から歪める事が可能な事に注意。本当に正しい証拠を探すのであれば、自分の恣意的な選択が入らない方法を探す必要があります。

*3:あくまでも過去の時点での話で、現在での話では無い事に注意。人は時代の変化を何気に無視しがちですが、時代の変化が人の行動に与える影響は、かなり大きいのではないか、と私は考えています。