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映画「エール!」派手さはないものの、素朴に歌い上げる姿が美しい。

この記事はネタバレを含みます。

テーマは「歌うこと」。終盤に、主人公が音楽学校のオーディションの時に歌う曲が、それまでの物語の答えになってます。
彼女の家族は、彼女以外は耳が聴こえず、そして、その彼女はとても良い歌声を持っています。それを音楽教師に見出されて、とあるオーディションを受けてみないか、と言われるんですが、色々あって諦めかけます。
彼女の夢は「歌」なのに、家族はその「歌」を聴くことが出来ない。これは、とあるシーンで、とても印象的に描かれます。周りの聴衆が彼女の歌に聴きほれているときに、同じ場所に居る家族には何も聞こえません。そういうシーンを描く事で、家族の取り残され感みたいなものを描いています。
彼女の母親は、自分の娘の得意な事を感じることが出来ない、歌を聴くことが出来ない事を嘆きます。けれど、娘の歌う姿を見ていた父親は、何かを感じ、彼女の喉に手を当てて*1、もう一度歌を歌ってくれ、と娘に頼みます。
そして、諦めかけた娘を、家族と共に車で、パリのオーディションに連れて行きます。
娘は、そのオーディションで、歌うと共に、手話で家族に歌いかけるんですね。
歌を聴き終わった、オーディションの試験官に、「良い選曲だ」と言われます。そう、歌う曲は、まさに、彼女がオーディションに参加し、パリに旅立つ意味を歌っている曲なんです。それを歌ととも、手話で家族に伝える。このシーン、伴奏に参加する、彼女を見い出した音楽教師の描かれ方も合わさって、色々な想いが詰まった、とても良いシーンになっています。
何より、家族に「歌が聴こえている」というのが、とても良い。


この映画、登場人物もなかなか良い描かれ方をしていて。彼女の家族、彼女の親友、音楽教師、そして彼女がコーラス教室に行こうとするきっかけになった男子生徒。それぞれの事情や想い、がちゃんと描かれているのが良かった。
父親が村長に立候補したり。親友も、何気に弟に手を出してたり、弟がラテックスのアレルギーで死にかける事件*2、起こしたり...。また、歌でペアを組むことになった男子生徒も、実は色々抱えています。
みんな色々あれど描かれる心理的な色調が明るく、特に主人公がとても明るく、生き生きとしていたのが良かった。ともすれば暗くなりそうな話なのに、観ていて楽しかった*3
フランス映画だからなのか、あまり派手に映像を描くことは無く、物語自身は普通に進んでいく感じですが、観ていて楽しかった。良かったです。


参考リンク
映画「エール!」公式サイト
ルアンヌ・エメラの歌うJe vole の訳詞〜『エール!』挿入歌 | フランス語

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*1:耳が聴こえない人でも音楽を感じる事は出来ます。

*2:アナフィラキシー・ショック。あんな時に起きたら、そりゃびっくりするでしょうね。

*3:家族全員が耳が聴こえないのは、何気に大変な事ですが、その部分で澱んだ感じはなく、それぞれがとても生き生きとしていたのが良かった。こういう部分、ともすると暗く描きがちだから。