luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

患者の死後、守秘義務が無くなるという近藤医師の主張は、故人の名声を利用するための言い訳。

川島なお美さんと、故人の親族にとって、今大切なのは、亡くなったという悲しい出来事に対して、心を癒すなり、自らの意志によって、心の整理をするなり、自らの意志に沿った行動を行う事です。決して、他人の勝手な主張に、心を煩わせることではありません。
人が亡くなると、近親者や、周囲の関係者のもとには、時に無神経な連絡や、心無い言葉が寄せられたりもします。静かに故人を悼んでくれる言葉ばかりではありません。
無名な方であっても、そういう事は多々起こるのですから、川島なお美さんのような方であれば、それが多いのではないか、という想像は成り立ちます。また、有名人の場合、その出来事にかこつけて、自分の主張を表明しようとする人は、生前も多いので、亡くなったもの言わぬ故人に対して、死人に口なし、と勝手な主張を始める人もいます。
とするならば、死後、故人の言葉をみだりに公開すべきではないでしょう。そこに、故人以外の勝手な主張が入り込んでいない事を誰も証明できませんから。故人と本人以外が同席していない場での情報は、それが故人の主張である事を証明することが出来ないのです*1。故人は既に無く、意見を述べることが出来ません。
患者の死後、医師の守秘義務が守られるのには、そんな意味合いもあります。例えば、患者側の発言をねつ造しても、患者に抗議の術は無いのですよ。ねつ造なんて大袈裟な事をしなくても、自分の主張に沿うように発言を曲げたとして、そこに抗議する相手はいません。そんな卑怯な事が許されるのでしょうか。
さすがに、今回の文藝春秋の記事では、そんな事まではしているとは思いませんが、故人の情報を、自分の主張の都合の良いように引用している、と感じました。それは、故人の名声を利用して、自らの主張を流布する行為なのではありませんか。
医療事例を研究する時に、その対象が有名人かどうか、その事例が誰なのかどうか、は不要の情報です。問題なのは、患者に起きた病態や、医療行為であって、その判断に妙な思考バイアスをいれる情報は逆に害となります。医学研究に個人情報を掲載しないのは、そんな意味もあるはずです。
勿論、医師の守秘義務も関係し、実際の研究では、患者の死後も患者の個人名が明かされる事はありません。しかし、元々、研究の報告自体に個人名が不要なのは、そもそもが医療事例を評価するのに個人情報が邪魔だというのがあります。
さて、そういう医療事例を評価する内容に、わざわざ不要の個人情報を持ってきて、個人が注目されている時期に、それをぶつけるのは、どういう意味合いがあるでしょうか。ここで、タイトルと繋がりますが、それは故人の名声を利用し、自らの個人的主張を広げる、という行為です。それを意図していなかったとしても、実際に起きる情報伝達には、そのような効果があります。


医の倫理の基礎知識|医師のみなさまへ|医師のみなさまへ|公益社団法人日本医師会(各論的事項 No.12「医師の守秘義務について」) より。

近年に至って、WMAは、普遍的な医の倫理の一般基準を確立することを目指してきており、その最初の任務として掲げたのは、ヒポクラテスの誓いを20世紀に合わせて最新のものにすることであった。その成果が1948年に採択されたジュネーブ宣言であり、宣言の中で守秘義務について、「私は、私への信頼のゆえに知り得た患者の秘密を、たとえその死後においても尊重する。」と述べている。

http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/d12.html

近藤医師は、記事の中で「治療にあたった医師が逃げの沈黙を*2」と述べているが、上記の指針であれば、そもそもがこの機に、医師が患者の医療情報を語らないのは、当たり前の事であって、どこかの医師が勘違いをして、医療情報を漏えいしたりしない限り、そんな事は起き得ないと思うが。
この機に、故人の医療情報を漏えいしているのは、私が見るところ、近藤医師のみであって、他の医師に、そのような行為は見られない。


そして、その行為は、故人の名声を利用して自らの主張を広める効果を、明確に持っている。
どんな言い訳をしようとも。

*1:証拠をあげてそれを証明できても、説明する本人が存在しなくなった時、その真意を説明してくれる人は居ない。

*2:文藝春秋 2015年11月号 P.188。 そもそもが「誤解を広めている」という主張も、個人主観であって、事実関係が示されていない。単なる個人の意見。医療の内容に関しては、各医療者が反論しているので、ここでは詳細に述べないが、誤解を広めているのは、どちらかというと近藤医師の方である。