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実は結構重要かも知れない。〜事件番号 平成15(行コ)1 公文書非開示決定取消請求控訴事件 名古屋高等裁判所金沢支部 平成16年4月19日判決〜

まとめでも、私がリンクを示していますが、判決文読んだ方はいますか。
ちょっと裁判所の判断で関連個所を引いていますね。核心部分かも知れません。
ただし、日弁連での法務速報でも、刑法134条についての解説はなかったので、実は一般常識なのかも知れません。法務に詳しくないので、私が知らないだけなのかも。ちなみにエラーが出ますが、日弁連の法務速報はこれです。→ 法務速報(第38号/2004年 7月21日)  (財)日弁連法務研究財団

(41) 名古屋高金沢支判平成16年4月19日 高裁HP 平成15年(行コ)第1号 公文書非開示決定取消請求控訴事件
 1 新湊市情報公開条例7条2号は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、または識別されうる情報(個人識別情報)を不開示とし(同号本文)、例外として、当該個人が公務員である場合に、当該情報がその職務の遂行にかかる情報である場合を規定する(同号但書きウ)。
 また、同条例15条は、7条2号本文に該当する情報であっても、当該情報により識別されうる個人(本人)からの開示請求については応じなければならないとする。
 本件は、亡母の市立病院での診療記録をその相続人が開示請求した事案である。
 2 本件診療記録は、作成者である医師にとっては7条2号但書きウに該当するが、亡母については同ウに該当しないので、7条2号本文所定の不開示文書である。
 3 15条に言う「本人」には、まず亡母が該当するところ、公文書開示請求権は相続の対象とはならない(平成16年2月24日最高裁判所第三小法廷判決 法務速報35号40番参照)。
 4 本件診療記録は、相続人の損害賠償請求権または慰謝料請求権の存否に密接な関連を有する情報を記録した文書として、社会通念上、相続人自身の個人識別情報でもあるということができるので、相続人は15条に言う「本人」に該当する。

https://www.jlf.or.jp/members/hanrei_mailmag/hanrei_data038.shtml


次に判例を示します。
判例 公文書非開示決定取消請求控訴事件 | 名古屋高等裁判所 | インターネット判例 より。

被控訴人は,刑法230条2項が死者の名誉毀損を処罰していることなどを根拠に,死者についてもプライバシー保護の必要がある旨主張する。しかし,死者は法的主体足り得ないのであるから,プライバシーの権利又は法的利益を有するものと解することはできない。刑法が死者の名誉毀損行為をも処罰の対象と する趣旨については,その保護法益をどのように理解すべきかに関して諸種の見解が対立している状況にあるが,死者の名誉毀損行為を処罰することにより,死者に対する遺族の敬慕の感情等を保護法益としてこれを保護することを通じて,公の秩序を維持しようとすることにあるのであって,必ずしも死者について死後の法的人格を認め,死者の有する名誉をそのものとして保護しようとするものと理解しなければならないわけではないから,刑事法以外の法的な紛争に関して上記のように解する妨げとはならない。したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない(なお,刑法134条1項は,医師に対して,診療等の業務上知った人の秘密を漏らすことを禁止しているが,同項の「人」には死亡した患者は含まれない。)。もっとも,死亡した者についてのプライバシーは,その者の死後においても,死亡した者の配偶者や子,さらには両親などの一定の身分関係にあった者にとっては,親族間の扶助義務や相続制度等を介して,社会通念上,自らの個人識別情報の一部とも観念される関係にある場合があるため,個人識別情報に係る「本人」が死亡した場合であっても,本条例7条2号本文にいう個人識別情報として, なお,プライバシー保護の対象となり得る

http://xn--eckucmux0ukc1497a84e.com/koutou/2004/04/19/54681

この判例は別の判例で否定されているかも、という話が出ていましたので、他に判例があるのかも知れませんが、少なくとも、この判例のみを根拠とするのであるならば、「死者は法的主体足り得ないのであるから,プライバシーの権利又は法的利益を有するものと解することはできない。」「刑法134条1項は,医師に対して,診療等の業務上知った人の秘密を漏らすことを禁止しているが,同項の「人」には死亡した患者は含まれない。」と定義されています。
人の定義について特に記載はありませんが、この判例は自然人の発生と終了の定義を基に、死者に権利は無いので、刑法134条違反の構成要件たる、人の秘密を漏示する行為については、そもそもが死者の秘密は、漏示すると定義する対象には無い*1ので、対象とはならない、と述べています。
しかし、です。記載はそれに留まらず、「もっとも,死亡した者についてのプライバシーは,その者の死後においても,死亡した者の配偶者や子,さらには両親などの一定の身分関係にあった者にとっては,親族間の扶助義務や相続制度等を介して,社会通念上,自らの個人識別情報の一部とも観念される関係にある場合があるため,個人識別情報に係る「本人」が死亡した場合であっても,本条例7条2号本文にいう個人識別情報として, なお,プライバシー保護の対象となり得る」と続きます。
素直に読めば、刑法134条1項での遵守すべき、医師の守秘事項には、故人の秘密は含まれないけれど、それらの情報の一部は、故人と存命である人との法律関係などを介して、保護され得る*2と読めます。
元々、この判決は公文書の非開示決定の取消請求ですので、その文脈も考慮に入れる必要がある*3のですが、一般的な社会慣習の中で、故人の医療情報の開示が行われた場合にも、意味としての解釈は、判断として採用しうると思います。
つまり、何を言いたいかというと、故人本人の保護という意味では、守秘義務はないのだけれど、故人の関係者に関わる情報に於いて、なお、守秘義務は存在している、と考えるのが妥当なのではないでしょうか。
つまり、刑法134条に限定すると、医師の故人への守秘義務は消滅するが、法全般を見渡した状況であれば、故人の生者との関係性に於いて、守秘義務は存続する、と考えるのが妥当かと思います*4
無論、刑法は強力な根拠であり、それに比べれば弱い根拠になってしまうのかも知れませんが。


さて、最初の定義に立ち戻るのですが、という事は、私の上での解釈はこうなります。
「法全般で言えば、医者の守秘義務は、故人に於いても、故人と生者の関係性に於いて存続する。ただし、刑法134条に於いて、故人の守秘義務が存続するとまでは言えない。」
以上が、私の結論です。無論、間違っているかも知れませんよ。他に判例があるかも知れませんし。


この解釈にたてば、日本医師会等の「患者の死亡後も、医師の守秘義務は存続する」というのも間違ってはいないのです。
ところで、近藤医師の「法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなりますが、」という内容。やはり、間違っているのではありませんか? 法は刑法134条のみではありませんから。
勿論、言い方は微妙なので、違う意味で言ったんだ、という主張もあり得ますし、私の法律解釈が間違っているのかも知れませんけどね。

*1:死者は、人ではないから。

*2:ここでは刑法134条のみを念頭に置いている訳ではないと思います。

*3:判決文中に、公文書開示についての条例が記載されています。

*4:判決文は、これを根拠に、相続人を「本人」とする事が可能となり、それ故に開示請求ができる、と判定しています。該当部分→「本件診療記録はその主たるものが医師法に基づき作成と保存が義務づけられている,診療に関する重要な文書であって,その患者や遺族に対する開示が社会的な要請となりつつある状況も考慮すると,Aの広義の死因に密接に関連する情報が記録されていると認められる本件診療記録は,Aの子として,その権利義務を含む法的地位を包括的に承継した相続人である控訴人との関係で,社会通念上,その個人識別情報にも該当するため,控訴人は,本件診療記録について,本条例15条1項所定の「本人」に該当するものと解するのが相当である。」