luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

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「ノロウィルス(属名)」が、実は「ノーウォークウィルス(種名)」であるという話。

昨日、Wikipedia を読んでいたら、興味深い記載があった。ノーウォークウイルス - Wikipedia より引用。

ノロウイルス』というのは属名であって、そのようなウイルス種名は存在しない。ゆえに正しい呼称(種名である『ノーウォークウイルス』)を使用すべきである。またノーウォークウイルスに起因する病気の発生に対して『ノロウイルス』という用語を使用しないよう、メディア、医療/保健の各機関、科学者団体に強く求める」という結論を公式のプレスリリースで発表している。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

これの該当の記載は、英語であるが 2011 ICTV Newsletter #9, November 2011 - Newsletters - ICTV Documents - ICTV Files and Discussions にて公開されている、PDF の内容として読める。文章には、確かにその記述があって、該当の部分を少し記載してみる。

ICTV also received a request from an individual in Japan to rename the genus Norovirus because of the possibility of negative associations for people in Japan and elsewhere who have the family name “Noro”. ICTV consulted widely with current and past members of the Caliciviridae Study Group and carefully discussed the case. The position was made public at the Congress and a press release was prepared. Following this experience, the ICTV strongly encourages the media, national health authorities and the scientific community to use the virus name Norwalk virus, rather than the genus name Norovirus, when referring to outbreaks of the disease.

http://talk.ictvonline.org/files/ictv_documents/m/newsletters/4069/download.aspx

何気に、日本のノロという姓に、悪い意味を与える事に言及しているのは、ちょっと驚いた。最後の方の部分で、アウトブレイクの時の名称として、種名である「ノーウォーク」ウィルスと呼称する事を強く(strongly encourages)奨励する(促す)とコメントしてますね。
でも、混乱するようだけど、ノーウォークウイルス(ノロウイルス)の遺伝子型(2015年改訂版) を読むと、呼称にあたっては、「ICTVのCaliciviridae Study Group(http://www.ictvonline.org/subcommittee.asp?committee=14)は、Species以下の分別方法には原則として関与しない。」と記載されているんですよね。
これを読み解くと、種名は実は「ノーウォーク・ウィルス」で、ICTV も、そう呼ぶことを強く推奨してはいるけども、世界的な趨勢、科学者の論文なんかも、呼称として「ノロ・ウィルス」を使用していて、本来はその呼称に ICTV は関与しないので、そのまま、その呼称が使用され続けている。そんな状況みたいですね。
該当文書でも、呼称は理由を述べた上で、慣例に従い、ノロウイルス(NoV)を使用する、としています。


こういうのって、結構、微妙な問題ですね。
世の中の多くのシーンで、誤用で、実は意味が違うのだけど、一般にそちらの意味で呼称されている故に、誤用された方の呼称で読んでいる例はたくさんあります。それは、一概にそれを修正した方がいいと言えないから、です。かえって変更する事で混乱が起きたりします。
また、一般に定着した名称を、無理に変更したりすると、うまく変わってくれない事もあるでしょう。その結果、言葉がうまく伝達されない事があるのであれば、それを避けるために、誤用を承知で、その用語を使い続ける事もあり得ます。
実際には病気の状態など、早急に知らせなけれなならない状況で使う言葉なので、切り替えて混乱を起こす事の方が、危険性が高いような気がします。何らかの大きな理由が出来れば、自然に変わっていく可能性もありますが...。


ところで、ICTV の文書で、ウィルスの呼称がノロという姓に悪いイメージを与える、みたいな理由が述べられていましたが、こういう音節が似ている、という問題を殊更に意識してしまうのはどうなんでしょうか。ノーウォークに変更したところで、類似の音節はあるでしょうし、そういう嘲笑めいた言い方というのは、元々にそういう言葉を発する行為があるからこそなので、変えても攻撃の方法が変わるだけで、何も解決しない気がします。
その事よりも、音節が類似しているだけで、その対象を嘲笑的イメージで表現してしまう行為、そのものを批判すればいい気がします。そうすれば、どんな呼称に変わろうと、通用する批判する内容になります。
正確な呼称をしましょう、という主張ならともかく、「類似の音節に悪いイメージが」というのは主張としてどうかな、と思います。その理由ですと、病気などの色々な名称*1に、悪いイメージがついてもらって困る名称の音節*2が、総て使えなくなる事を意味しますから。
勿論、ある程度は避ける努力は必要かと思いますが、それも行きすぎると、何も決められなくなりそうです。

*1:ウィルスとは限らない事に、注意。

*2:同じものとは限らない。呼び方が似ていて、連想してしまうような音節もある。