luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

疾患告知の次に来るもの、それは潔癖症とも思える職場意識の壁。

ちょっと参考記事を引用してみたい。病気で休職→4割退職 がん・心の不調がやや高め - ニュース - アピタル(医療・健康) より。

昨年11月の調査で、従業員が50人以上いる企業2万社が対象で、5904社が回答した。

 調査結果によると、1カ月以上連続して休める「病気休職制度」を91・9%の企業で導入し、このうち52・0%で過去3年間に利用者があった。利用者のうち、昨年11月の調査時点で51・9%が復職し、37・8%が会社を辞めていた。がん、心の不調、脳血管疾患を患った利用者のうち退職した人の割合は42〜43%と、やや高めだった。

http://apital.asahi.com/article/news/2013072000005.html

病気休職制度を使用した後に、約4割が退職している、という話ですね。
数字には病状悪化で辞めたのか、それ以外の理由*1で辞めたのか記載がありません。元々、職場へのアンケートですから、職場の偏見などがあっても回答に反映させるのは困難*2でしょうから、設問に設けていない、という事も考えられます。
しかし、実際には 「HIV感染で休職強要」 福岡の看護師が提訴  :日本経済新聞 のような事件が起きていますし、このような事が医療機関という「本来は感染症に一番正確な知識を持っている筈の処」で起きている、という部分から考えても、偏見は隠れてはいるが、存在しているのではないでしょうか。
特に HIV/AIDS という病気は、過去にこの病気が知られ始めた時からの興味本位での報道や、一般に浸透していた偏見の度合いから考えても、偏見は強かったのではないかと思います。
最近では、衝撃的な報道は減り、知識も地味に浸透している処から見て、偏見の度合いも薄まっては来ていますが、私自身の見立てでは、人権意識が高く、医療情報の正確な把握に努める賢明で聡明な層には偏見は薄まっていても、そういった知識が薄く、人権意識も希薄な層には、まだ偏見は根強いのではないか、と考えます。
医療機関での事件は、ある意味、その境界線上にある、医療情報と感情のせめぎ合いが露呈したものでは無いのかな、と思っています。他の医師が問題ない、と指摘した状況を、他の医療機関が問題視し、休職強要を行った訳ですからね。
なお、この事件は提訴後に判決が出ています。HIV感染で看護師に休職指示 病院側に賠償命令 福岡 - ニュース - アピタル(医療・健康) から、少し引用しますね。

エイズウイルス(HIV)に感染した福岡県内の20代の元看護師が、感染を知った勤務先の病院側から休職を強要されたとして、病院を経営する法人に対し約1千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が8日、福岡地裁久留米支部であった。太田雅也裁判長は「他の患者に感染させる危険性は認められず、勤務を休むよう指示して就労を妨げた」として、法人に約115万円*3の支払いを命じた。

元看護師は2011年8月、勤務先とは別の大学病院のHIV検査で陽性となった。判決は、大学病院の医師からは看護師として働くのに支障はないと言われていたのに、勤務先の病院が感染のリスクがなくなるまで休むよう指示したと判断。診療目的で知り得た感染の情報を、本人の同意なしに労務管理のために用いることは許されないとも指摘した。

http://apital.asahi.com/article/news/2014080800007.html

判断を不当と考えて、損害賠償請求を認めています。詳細に判決文を読んだわけではないので、細かな判断は避けますが、そのような判断が出ています。医療情報をみだりに伝達した件については、和解が成立しているようですね。


医療機関でも、自らが偏見に囚われれば、厚生労働省の「就業禁止や解雇の理由にはならない」という見解が出ていても、誤った判断をしてしまうのですから、医療知識に正しい知識が無かったり、賢明で論理的な行動を目指していなければ、偏見丸出しの行動をしてしまう職場環境もあるでしょうね。
ただ、私が見るところ、HIV/AIDS に関しては、かなり冷静な判断をしている企業が多い印象です。どちらかというと、他の疾病や、精神疾患てんかんなど脳神経の疾病の方が偏見が強いかな。ただ、やはり偏見を生む土壌や、管理職の資質みたいなものはあって、それがあったり、無かったりする事で、偏見の濃淡はかなり様相を異にするようです。
とはいえ、企業全体というか、経営陣のような、企業の傾向、人事管理の色合いとすると、全体的な雰囲気とは違い、潔癖症のような、マイナス要素を異様に忌避する傾向が強いように感じています。癌宣告がされ、闘病中の多くの会社員などに聞くと、やはりそういう内容を語る人が多いですし、それ以外の生活習慣病や慢性疾患などでも、職場の偏見に辟易して、転職した例を結構聞きます。
そういった内容を聞くと、病気と言う要素を、それに罹るまでは意識できない人が居るようです。それは人事管理の部分に強い印象を、私は持っています。また、人事分野以外でも、身近に病気があっても、自分の身になって考えたり、実質的な内容として考えられない人が多数います。
この内容に関連しては、本日の「サイエンスカフェ HIVかふぇ2015」でお話しされる方も 見た目にはわからない病名を伝える意味とは? | Plus-handicap で、自分のエピソードとして語られています。
私も、実はちょっとした疾病を持っていますが、それを語った時に、それを異様に過剰なものとして認識*4する方が居ますので、それを知らせるのには慎重ですね。故に、相手が論理的で、ちゃんと自己感情を賢明に処理出来うる人、かつ、その知識を話すような機会がある人、にしか、その事情は話していません。
それから考えるに、やはり、人間は偏見から、なかなか解放されていないんだなあ、と考えます。ちなみに、何らかの疾病持ちはかなり、偏見薄いですね。そこの処は、やはり自分の身になって考えられるからなんでしょうね...。

*1:例えば、退職強要があったのか、強要が無くても、職場の雰囲気で居たたまれなくなって辞めたのか。

*2:偏見の有り様を正直に答える企業があるとは思えない。そういう事をすれば自己の企業精神を問われますので。実際にあっても告発の形を取らなければ、内実を晒す事は出来ないでしょう。

*3:請求額の約一割です。ちなみに、この割合を以って判決の度合いを評論する方がいらっしゃいますが、それは大きな間違いを引き起こすので、あまりしない方が良いと思います。何故かと言いますと、そもそも判決文で賠償金額の訂正がされている場合があります。元々請求額が適切ではなく、その訂正の言及がある場合、そもそも判決を全面的に受け入れていても、その額になりますので、その場合、判断を誤ります。また、そのような理由が無く、賠償金を訂正している場合にも、それぞれの事件で多様な事情がありますから、機械的に判断する事はなかなか難しいです。判決文を読んだり、事件の事情を調べたり、口頭弁論の記載などを確認して、初めてそれが見えてきます。また、訴えを全面的に認める判決文でも、賠償額については全額ではないような判決文もありますので。そのような事情なので、安易に判断すると、そこら辺を見誤りますので、気を付けた方が良いです。これは調剤処方の過失事件の場合ですが、判決文に「賠償請求の中で、〜の部分が投薬の影響と考えうる等(判例時報 平成13年7月1日号 120頁)」と書かれていて、その理由で賠償額が訂正されていました。これは、判決文をちゃんと読まないと、判断を誤る一例です。

*4:私は基本的に、日常生活に支障はなく、ごく普通に勤務できる状態です。でも、それを知らせた時に、異様に奇異にそれを捕えたり、私との会話で、その事しか話題にしない人が出現したりするのを経験で知っています。