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判例掲載 不当利得返還等請求事件 平成26年10月28日 最高裁判所第三小法廷

無限連鎖講、いわゆるネズミ講に関する最高裁判決文、全文を掲載します。
平成24(受)2007 不当利得返還等請求事件 平成26年10月28日 最高裁判所第三小法廷 判決 - 破棄自判 東京高等裁判所 平成24(ネ)1208 平成24年6月6日 より、判決文(PDF)をテキスト化したもの*1です。

平成24年(受)第2007号 不当利得返還等請求事件
平成26年10月28日 第三小法廷判決
主 文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 被上告人は,上告人に対し,2133万2835円
及びこれに対する平成23年6月4日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告人及び上告代理人古川和典ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,破産者株式会社A(以下「破産会社」という。)の破産管財人である上告人が,被上告人と破産会社との間の契約が公序良俗に反して無効であるとして,当該契約により破産会社から金銭の給付を受けた被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記の給付額の一部及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 破産会社は,平成22年2月頃から,金銭の出資及び配当に係る事業(以下「本件事業」という。)を開始した。本件事業は,専ら新規の会員から集めた出資金を先に会員となった者への配当金の支払に充てることを内容とする金銭の配当組織であり,無限連鎖講の防止に関する法律2条に規定する無限連鎖講に該当するものであった。
(2) 被上告人は,平成22年3月,破産会社と本件事業の会員になる旨の契約を締結した。被上告人は,同年12月までの間に,上記契約に基づき,破産会社に対して818万4200円を出資金として支払い,破産会社から2951万7035円の配当金の給付を受けた(以下,上記配当金額から上記出資金額を控除した残額2133万2835円に係る配当金を「本件配当金」という。)。
(3) 破産会社は,本件事業において,少なくとも,4035名の会員を集め,会員から総額25億6127万7750円の出資金の支払を受けたが,平成23年2月21日,破産手続開始の決定を受け,上告人が破産管財人に選任された。上記破産手続においては,本件事業によって損失を受けた者が破産債権者の多数を占めている。
3 原審は,上記事実関係の下において,本件配当金の給付が不法原因給付に当たり,上告人は民法708条の規定によりその返還を請求することができないと判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
本件配当金は,関与することが禁止された無限連鎖講に該当する本件事業によって被上告人に給付されたものであって,その仕組み上,他の会員が出えんした金銭を原資とするものである。そして,本件事業の会員の相当部分の者は,出えんした金銭の額に相当する金銭を受領することができないまま破産会社の破綻により損失を受け,被害の救済を受けることもできずに破産債権者の多数を占めるに至っているというのである。このような事実関係の下で,破産会社の破産管財人である上告人が,被上告人に対して本件配当金の返還を求め,これにつき破産手続の中で損失を受けた上記会員らを含む破産債権者への配当を行うなど適正かつ公平な清算を図ろうとすることは,衡平にかなうというべきである。仮に,被上告人が破産管財人に対して本件配当金の返還を拒むことができるとするならば,被害者である他の会員の損失の下に被上告人が不当な利益を保持し続けることを是認することになって,およそ相当であるとはいい難い。
したがって,上記の事情の下においては,被上告人が,上告人に対し,本件配当金の給付が不法原因給付に当たることを理由としてその返還を拒むことは,信義則上許されないと解するのが相当である。
5 以上によれば,上記のような点を考慮することなく,上告人の請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記事実関係及び上記4に説示したところによれば,本件配当金に相当する2133万2835円及びこれに対する返還の催告後である平成23年6月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の請求には理由があるから,これを棄却した第1審判決を取り消し,同請求を認容すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官木内道祥の補足意見がある。
裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は,本件の事実関係の下で,不法原因給付としての返還拒否が信義則上許されないとの法廷意見に賛同するものであるが,返還請求する者が破産管財人であることと信義則の関係について,私の考えるところを述べることとする。
無限連鎖講のように,実現不可能な高利率の配当を約束して出えんを募り,その配当の実施を誘因としてより多くの出えんを得ようとする事業では,出えん者の大多数は出えんの填補を得られないことが必至である。この事業における利得者は出えんを超える配当を受けた少数者であり,その利得の元となった他の出えん者は損失を受けており,事業実施者に対する債権者となっている。
その事業実施者が破産した場合,破産管財人が行う給付(利得)の返還請求は,破産者に代わって行うものということはできない。破産制度の目的は「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」ことであり(個人破産については「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」ことが加わる。),その目的のために「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整」(破産法1条)するという破産管財人の任務の遂行としてこれを行うのである。
破産管財人の任務遂行によって得られた資産は,破産財団に属し,手続費用を含む財団債権及び破産債権の全てを支払って余剰が生ずるというような稀有な事例を除けば,破産者に交付されることはない。破産手続の廃止は,破産財団が破産手続の費用に不足する場合になされることはもちろんであるが,破産管財人は換価し得るものは換価し尽くして手続費用を含む財団債権に充て,なお不足する場合に廃止の申立てを行うのが実務の通例であり,破産管財人が第三者から回復した財産が破産廃止により破産者に戻されるようなことは,実際上,考えられない。
会員を含む破産債権者への配当が実施されれば,その配当額については破産者の債務が減額されることにはなるが,破産者にとっての破産債務の消滅ないし自然債務化は,破産配当の有無を問わず,法人であれば破産終結に伴う法人格の消滅により,個人であれば免責許可によってなされるのが破産制度の基本的な仕組みであり,破産管財人に対する給付の返還が直ちに破産者の債務の消滅に結び付くものではない。破産管財人の不当利得返還請求を認めることをもって,反倫理的な事業を行った破産者に法律上の保護を与えることになるということはできない。
以上の観点からすれば,本件において,破産管財人の返還請求を認めないとすれば,他の会員の損失の下に本件事業により相当額の利得を得た者がその利得を保持し続けることを許容することになるのは法廷意見の述べるとおりであり,他方,本件における破産管財人の返還請求はそのような結果を回避して,損失を受けた会員を含む破産債権者など利害関係人の権利関係を適切に調整するためのものであるから,不法原因給付に当たることを理由として給付の返還を拒むことは,信義則上許されないと解すべきである。
(裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官
大橋正春 裁判官 山崎敏充)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/582/084582_hanrei.pdf

*1:私の方で少し微調節しています。