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luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

ネット法律情報が嘘過ぎる、と弁護士の方が言ってた背景を、私が窺い知れる範囲で説明しておきます。

Google先生やYahoo知恵袋の法律情報が嘘すぎる。なのに依頼者がそっちにはそう書いてますと言って聞かない...(原文ママ、ここまで引用。)』という事ですね...。本当に依頼者のどの位がそう言っているのか、ちょっとこれだけでは分かりませんが。
ただ、そういう事情は何となく分かります。依頼者という括りではありませんが、弁護士さんの相談事例では、特に無料相談の場合は顕著に、自説に固執する相談をする相談者が、実は結構話題になってます*1
また、弁護士さんに相談した、とした上で、法律的な見解ではレアな見解とも思える主張をする例は、ネットでも、現実でも結構見られるので、それがネットの法律情報を基にしているかどうかは別として、そういう人がかなり居るであろう、という推測は成り立ちます。
その上で、下記の主張をされる法曹の方がおられました。
『自分の主張と同じ内容を選び信じてしまう確証バイアス、そして意外な事*2ほど簡単に信じてしまう特異情報選択バイアスがある(意訳)。』という事ですね。
なるほど、と思われる内容なんですが、法律の事例が医療とは違って持っている側面があり、そこの部分も関係しているかも、と思いましたので、少し、その内容を本日のブログ記事では書いてみます。
まずは一つ目。
(1) 法律用語は日本語で示されているが、実は話されている会話などと同等の意味を持っている訳ではない。そのため、日本語として一読して判明する文章という訳ではない。故に読解の過程で、自分好みの解釈にすり替わりやすい。
これ、一般の人が結構解釈を間違えやすい理由でもあると思いますよ。判決文や、法曹の会話、私のブログでも時々使う法律用語。これは日本語の形をしていますが、実は日常会話と意味が異なったり、特殊な意味合いを持ってたりします。「善意の第三者」「過失」「故意」「法の謙抑性」「構成要件」「違法性阻却事由」「有責」「業務」「結果的加重犯」...、もう無数にありますが。
また法律用語には一見、見えませんが、条文の「及び」「並びに」「かつ」とか。これも沢山あります*3
法の解釈や、その関係で話される条文や、判決や、契約書など、そこで使われる用語、用法は、法律の文章の法則に則っています。故に、普通の日本語を読むような形で解釈すると、実はその文章では言っていない事まで、解釈の上で付け加えてしまう事にもなりかねません*4
(2) 法律上の会話、用法はかなり注意深く、正確に表現されているのですが、そこの部分を不正確に誤読しがち。特に、表現されていない内容までを、推測で付け加えてしまいがち。
これは、私も良くやるので、自戒を込めていますが、文章的に平易な表現であっても、ごく普通の文章でさえ、法律関係の文章は油断できなかったりします。
先日、私の知り合いが判例時報を読んで、妙な解釈を披露していたので、気になって該当記事を読んだのですが、判決解説には、本人の主張することなどは書かれていませんでした。そこには、判決で表現されている事項の「議論がある」と書かれていたのですね。私の知り合いは、その事項まで判決文に書かれていた、と解説を解釈してしまったのですが、よくよく読むと、そうは書いていないのですね*5
法律上の事項は、法曹の会話でもそうですが、かなり正確に表現するように努めています。その一例で、例えば「言及していない事」は未解明のため、もしくは未決のために、意図して「言及しない事にしている」という場合があります*6
そういった、わざわざ言及しないでいたり、表現の上でちゃんと前提条件を付けていたり、表現を必ず同じ言い回しにして、誤解を防いでいたりする部分は、そこを変えて表現してしまったり、変えて理解してしまうと、本来の意味合いからズレ、間違った解釈に進んでしまいます。
これ、法曹でもそういう誤りをやります*7ので、一般人では、さらに誤りは多いでしょうね。
(3) 実際の事例は必ずしも判例の内容に完全に合う訳ではない。故に、類型解釈が必須。ここが難しい。
実際に起きた事例は、多くの判例で判断する訳ですが、訴訟はミズモノとも言われる通り、意外に違う結果になる場合もあります。実例は、それぞれおのおの事情があり、過去に起きた判例の事件と全く同じではありません。そこの部分で、数多くの事例を知っていて、どれが今回の事例に合うか判別できる、類型解釈の能力が重要です*8
ネットの法律情報が正しい内容であっても、その事情まで、自分の事例と同じである保証はありません。必ず、何かが違います。その部分で、類型解釈の経験知が無い、一般の人は「事例の当てはめ」を間違えるのですよ。
これ以外にも、実務上はそういう運用が無いのに事情を知らない、とか、多分、沢山の理由があると思います。勿論、ネットの法律情報自体も色々不正確ですが、それに加えて、例え正確な情報ばかりになっても、そんな事情から、一般の人は判断を誤ると思います。


で、それがまさに、法律相談は結局、法曹まかせになってしまう*9、一因でもあるのですよね...。
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関連条文

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

第72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO205.html

*1:弁護士さんとの話の中で。確か、判例雑誌の記事にもなってたのではないかな。

*2:判例などで示される通説と別の、レアな情報。

*3:条文上の表現だけに限定するのであるなら、そんなには多くありませんが。

*4:例えば刑法上の過失犯。これを正しく定義できますか。...ちなみに、私は未だに出来ません。

*5:「議論がある」は、文字通り、議論がある事を示しているだけで、判決内容に議論は関係づけられていない。判決文はあくまで、判決文に表現された内容。

*6:一見して推測できそうな内容でも、明言を避けている場合は、隠れた留保条件があり、成立していない場合があります。

*7:法曹が必ず誤らないでいる、なんて思わないでくださいね。法曹だって誤りますよ。人間ですからね。

*8:ここら辺は一般の人は法曹にまったく太刀打ちできないでしょう。

*9:ちなみに弁護士や、他資格者でもないのに、報酬とって法律相談したら、弁護士法72条違反。「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」ってあるので、弁護士以外にも可能な方は居ます。