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続・お薬手帳「制度設計が何故難しくなるのか。」

お薬手帳の議論に見える、システム構築の苦労に関する無関心(ITに限らず)。 - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック の続きです。
私が、「お薬手帳」のシステム構築の難しさ、を嘆いていましたが、なかなか、この難しさ、実感することが難しいものです。
それが何故か、人間の心理も含めて、少し書いておきます。
心理面では「事後の認知バイアス(思い出しバイアス)」あたりが、かなり強く関係します。


そもそもがお薬手帳、いったい、どのくらいの人が利用するものでしょうか。薬を使う人ですから、いわゆる病気になった人、もしくは病気ではなくても、何らかの事情で薬を必要とする状況になった人、です。
つまりは多くが病人*1で、障害者も該当する、という事です。
つまり、使用者には色々な操作にあたっての問題が存在する可能性があります。システム設計には、それらの人への操作に対しての配慮が必要となります。多様な問題の発生が存在し、そこの部分で考察が大いに必要となります。
多くの人に、何故、それが実感できないか?
それは、多くの人がそんなに病気をしないからです。
人は高齢になってくれば、それなりに病気が日常になってきますが、そうでない人にとって、病気は日常ではありません。そういう人にとっては、そういう人が使う「お薬手帳」の操作感が分かり難いと思います。
また、多くの人にとって、病気自体が重なる事はなかなかないので、身体障害の人が精神障害を、急性疾患の人が慢性の病気を考察するのはなかなか難しいものです。それぞれの薬の使用感が、実は違う事もあり得ますので、そういう意味で、多様な使用シチュエーションをなかなか考え付かないと思います。
そして、先ほどの「事後の認知バイアス(思い出しバイアス)」が関係してきます。
多くの問題がある事を自覚した後、それなりの人は、その心理を自覚できず、それらの問題は簡単に解決できる、と考えがちです。
ですが、実際には、それらの問題を解決する長い考察時間が実は存在しているのですね。それ故に、問題解決策を思いついているのです。
そこの部分を忘れて、簡単だよ、と考えてしまい、問題の全体像への見積もりを誤ります。故に、システム構築は、それに思いをはせない人にとって、安易に軽く見られがちなのです。


お薬手帳のシステム構築には、ざっと思いつくだけでも多くの要件で問題解決が必要です。
「誰もが使える、操作理解の容易さ」「個人の情報が守れる情報セキュリティ」「本人が情報にアクセスできない場合の、家族等への情報アクセス手段」「情報が正確かどうかの検証機構」「システム不全が起きた場合の代価手段*2」「処方箋訂正が起きた場合の相互情報連絡の仕組み」等、etc...。
健康保険の加入者対象と考えても、ほぼ国民全員ですし、多様な人が使用する故に、沢山の問題があり得ると、思いますよ。

*1:病気には体と同様に、精神に関する病気もある。つまりは使用者に正常な判断が存在しない場合もある、という事です。

*2:これがまさに、紙の方のお薬手帳の役割。