luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

新しく入ってきた人を大切にせず、自己知識の伝達を怠る組織が、自己反省を失う物語。

まず最初に組織が誕生する。
最初の組織は単純で、内部に蓄えられた情報も少ない。構成メンバーも少なく、情報共有は工夫しなくても容易だ。
ただ、この時に情報共有の大切さと、その情報共有の学習に新しい人が費やす時間の重要性に気づいていないと、組織が成長するにつれ作られる内部情報の共有に失敗する。
日々の業務が、そういう気持ちを流してしまうほど忙しくなるのと、その行動が、組織内部の古参の人員の行動を非常に優位にするため、内部情報の共有化にインセンティブが働きにくくなるためである。


さて、その動機を失った場合、その組織がどう変化していくのかを見て行こう。
組織が良好で、利益を生む状態であるのであれば、組織人員は増加し、次第に内部に蓄えられ、業務に必要となる情報は増加する。内部の人間の経験知は、業務の遂行に伴い、自分には自然に蓄積されるので、内部の人間に意識されることは少ない。しかし、実際の業務に必要となる内部情報は増加する。新たに人が加わった際に、その多さに困惑する程度には。
だが、内部の人間は日常の業務に忙殺される事もあって、自らが経験で知り得た仕様、知識ベースを作ることはしない。自らは経験知で、そんなものを必要としないから。そして、この意識はゆっくりと、その組織を蝕む温床となる。
新たな人員が来訪する。経験知に頼るような組織となっていれば、未文書化された前提知識は増大し、新人が困惑する程には、それは大きい。しかし、新人以外の既に経験知を得た人間に、その感覚はなく、その新人を叱責し、時には蔑視する風潮が生まれる。
新人の側には困惑と同時に、大きな恐慌が来訪する。当たり前の困惑を伝えたつもりが、大きな嫌悪と、能力否定の意見で回答されるからだ。
これは、いわゆる新入社員で新人を補充する組織よりは、経験者、中途採用者、派遣労働者で補充する組織で顕著だ。新入社員はあまり物事を知らないと認識されるのに対し、後者は一般に即戦力として期待されて登用されるからだ。
しかし、いかに経験者であろうとも、今までのそこでの業務経験者が行ってきた業務が未文書状態であれば、状況把握に時間がかかる。多忙で古参経験者からの知見があまり得られず、求めると蔑視の意見が返ってくるのであれば、さらにその傾向は強まる。


自己を顧みることが出来なくなっている組織であれば、この状況に新人を切る事で対応する。派遣労働者であれば即時の契約停止、中途採用者でも、いじめや、異動への誘導、退職勧告など。
酷いと思う人も居るかもしれないが、自己を顧みることができない組織に、その意識はない。逆に、無能力な人間をそんなに厚遇するのか、と反論されるのがオチだ。
そして、経験知での有利さは、そこでの経験者を傲慢にさせる。経験知の有利さは、自分の気にくわない人間の排除に使う事も出来る。経験知識を秘匿することにより、相手に使用できなくさせ、自己評価を良くすることも可能。こういった、経験知の優位性は、多忙にかまけて、経験知の未文書状態を維持する意識の底にあったりする。
かくして、未文書化的な知識を背景に、新人を自己都合で選別する組織が誕生する。その行動を固定化するインセンティブも同時に存在している事になる。
フィードバックループは傾向を強める内容で閉じているので、何らかの理由で組織が崩壊の危機にならない限り、問題意識が顕在化することは無い。
自己反省を失うのは、新人が新たな視点を提供することがなくなってしまうから。
その組織の傾向に従う事が、その組織の要員に留まれることを意識するのであれば、来訪者は冒険的な意見を言う事を恐れる。それにより、革新的な視点の意見が供給される道が経たれ、組織は自己反省の視点を失う。

著者の意見(補足)

業績も好調で、雰囲気も良さそうに見えるのに、妙に挫折者が多かったり、新人が定着しなかったりする組織はないだろうか。そういう組織を見たら、既存の経験知識を文書化していないか、を気にしてみてください。そういう場所では、隠れて見えにくいですが、イジメも多発していたりしますよ。
記載の内容が違いますが、類似の内容を扱った視点の記事 → http://www.hi-net.zaq.ne.jp/gonpapa/prodcty/seisan/chisiki.htm

補足として、各要素を補強する心理学的な内容を記載しておく。

新人を排除する別の側面 → 内集団バイアス*1

攻撃に使われる心理的なツール → ステレオタイプ心理*2

組織の心理学

組織運営の心理学や、硬直してしまった組織への処方箋は、ワインバーグ心理的な側面として著作を出している気がします。一冊、各著作への入り口にもなっている著作を紹介しておきます。
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*1:参考 【内集団バイアス】一級市民と二級市民~差別の実験

*2:例えば「〜をするやつは」のような型にはめる思考。 参考 ステレオタイプ | 社会心理学