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「事件番号平成27(ワ)18469、東京地裁平成28年4月28日判決 いわゆるEM記事への賠償請求」判決文の解説

この判決文に於いて、裁判所の判断を示したものは「第3 当裁判所の判断」であり、そこに判断内容はかなり簡潔に示されている。
判例 平成27(ワ)18469、損害賠償等請求事件 平成28年4月28日東京地裁判決(未確定) - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック より、最初の争点部分。

著作権法において保護の対象となるのは思想又は感情を創作的に表現したものであり(同法2条1項1号参照),思想や感情そのものではない。本件において本件原告記載と本件被告記載1及び2が表現上共通するのは「重力波と想定される」「波動による(もの)」との部分のみであるが,この部分はEMの効果に関する原告の学術的見解を簡潔に示したものであり,原告の思想そのものということができるから,著作権法において保護の対象となる著作物に当たらないと解するのが相当である。

http://d.hatena.ne.jp/luckdragon2009/20160531/1464654933

参考までに、「著作権法2条1項1号」は以下となる。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html

つまり、引用されたとして原告が被告を訴えた対象の文章は、著作権法上に言う創作物には当たらないという事になる。これゆえに、この文章は著作権法上での保護対象とはならない。当人の表現創作物でないのであれば、単なる一般的な文章であり、何人もその文章表現を使う事を妨げる事は出来ない。


判例 平成27(ワ)18469、損害賠償等請求事件 平成28年4月28日東京地裁判決(未確定) - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック より、次の争点。

被告が原告を取材せずに,また,本件原告記事を参考にするに当たり出典を明記せずに本件記事1及び2を掲載した行為は不適切であったということができるとしても,不法行為と評価すべき違法性があったとはいえないと判断するのが相当である。

http://d.hatena.ne.jp/luckdragon2009/20160531/1464654933

上記が最終的な判断であり、これについては、この前部分で下記のように詳細な説明がある。

朝日新聞記者行動基準」(乙1)が規定する取材方法(「出来事の現場を踏み,当事者に直接会って取材することを基本とする。特に,記事で批判の対象とする可能性がある当事者に対しては,極力,直接会って取材する。」)に抵触しかねない行為であったと考えられる。
しかし,上記基準は記者が自らの行動を判断する際の指針として被告社内で定められたものであり(乙1),これに反したとしても直ちに第三者との関係で不法行為としての違法性を帯びるものでない。これに加え,本件記事1及び2における原告のコメント部分(本件被告記載1及び2)は,公にされていた本件原告記事を参考にして執筆されたものであって,その内容はEMの本質的効果に関する原告の見解に反するものではないと認められる(甲6,7,乙2,3,4の1・2)。そうすると,本件記事1及び2によって原告の見解が誤って報道されたとは認められず,したがって,これにより原告が実質的な損害を被ったとみることもできない。

http://d.hatena.ne.jp/luckdragon2009/20160531/1464654933

裁判に於ける損害賠償請求は、不法行為に対してなされるものであり、この根拠条文は民法709条である。

   第五章 不法行為
不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

この裁判の判決では、不法行為があったとは認められない、という判断となっている。それゆえに、不法行為に伴う損害賠償も認められない、という事になる。


以上をまとめると、原告の訴えた対象の文章は著作権法上の保護対象ではなく、被告の行為は不法行為と認める事も出来ないから、原告の訴えを棄却する、とする判決である。
これに加え、判決では訴訟費用を原告の負担としている事から見て、ほぼ一方的な原告の敗訴である、と見ることが出来る。


本件は原告控訴が伝えられているので、判決は確定せず未確定となってはいるが、ほぼ覆すことが難しい判決文であり、原告側がどう反駁するのかが注目される。
なお、一般的な法務の考え方からすれば、いたって妥当な判決であり、特に驚く内容でも無いであろう。