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実は「人食いバクテリア」という菌は存在しない。感染研市民セミナー、受講メモ。

『感染研市民セミナー(第35回)いわゆる「人食いバクテリア」の正体とは?』を受講してきました。
場所は、国立感染症研究所村山庁舎、です。立川駅から、バス路線でしばらく北に行ったところにあります。今回、初めて行きました。なお、入り口に守衛さんが居ますので、用事がある時には身分証持って行った方が良いです。
なかなか興味深い内容でしたが、詳しく書きだすと非常に長くなる事や、ちょっと確認が必要な部分がありますので、今回は要所のメモのみにします。疑問部分も書きだしてあるので、何かあれば私の twitter アカウントなどに連絡ください*1

『感染研市民セミナー(第35回)いわゆる「人食いバクテリア」の正体とは?』 受講メモ(要点)

(1) よく報道や話題の際に「人食いバクテリア」なる呼称をされているが、該当の症状を示す菌は一つではなく、それを総称して呼称しているため、情報に混乱を生じやすい。

報道される多くが「劇症型A群レンサ(連鎖)球菌感染症」であり、これの原因菌は「A群レンサ球菌」ですが、実はこの類似の症状を起こす菌には「C/G群溶血性レンサ球菌」「B群溶血性レンサ球菌」「ビブリオ・バルニフィカス」「黄色ブドウ球菌」などがあり、それをごっちゃにして話題にしている場合があって、混乱を生じやすい。
タイトルにも記しましたが、実は「人食いバクテリア」という特定の菌は存在しません*2。そのような症状を示す菌を総称して、そう言っている状況ですね。

(2) 劇症型の菌は特定の変種の株が多い。

劇症型となった「A群レンサ球菌」を遺伝子分析したところ、csrS/csrR および rgg遺伝子の変異が見られる変種の株で起きている。これは劇症型の約半数(57.3%)で見られる*3
遺伝子のこの部分については、働きとして周囲環境を関知して、病原遺伝子の発現を調整している、感覚器的役割に関する部分となっている。つまり、ここの部分が正常でない事により、病原性の抑制がなされていないのではないか、と推測される。

(3) 人から人への感染が無く、対象者が死亡、ないし組織切除されてしまえば、そもそも自身の系列の遺伝子を残せないため、生態がまだまだ未解明。

元々の「A群レンサ球菌」は普通に、人から人へとうつりますが、劇症型のそういった感染は特殊な例*4を除き、確認されていません。ちなみに、発生部位*5が通常と違います。
実際の対処としては、抗生物質が効くので*6ペニシリン系薬を投与したり、症状の重篤化を防ぐため、病巣部分を切除したり等を行います*7
結果として、人から人へ伝染する事も無く、自分の遺伝子を残していくことが出来ない。それ故、実際の生態もまだまだ未解明のようです。

一般の医療機関では、初期に劇症型であるかを確認し、対処しているようです*8。その際に、簡易検査で、菌の性格を確認しているようですが、ここで、どこまで確認可能かどうかは私の知識不足で疑問点になってます。
具体的に言えば、ここでの簡易検査は「A群レンサ球菌」まで分かるのか、それとも変種の株であるところまで確認可能か、という部分です。前者だとは思うのですが、私の質問の仕方が悪かったのか、もしかしたら後者まで確認できる手法があるかどうかまでは確認できませんでした。


最後の疑問の解明や、詳しい情報の再確認などの必要性もあり、実際に受講する際には、やはり医師資格を持つ人か、感染症の全般的な医学知識を持つ人と一緒に行った方が良いな、と感じた、セミナー受講でした。今回の記事も、聞いた内容、配られた資料をかなり端折って記載しています。
今後も類似のセミナーには参加しますので、一緒に行ってもいいよ、という方がいましたら連絡してください。


なお、近年、発生件数が増加傾向*9にある事に対しては、段々情報が明らかになって、起きている事が分析可能になった結果の認知バイアスが関係しているのかも、という推測が成り立つ可能性がありますが、実際のところ、明確な理由はまだ未解明状態のようです。


関連リンク

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
IDWR: 感染症の話 劇症型溶血性レンサ球菌感染症
劇症型溶血性レンサ球菌感染症|神奈川県衛生研究所

*1:[twitter:@rt_luckdragon]

*2:後述しますが、特定の症例、特定の変種の株だけを対象にすれば、存在している、とも言えますが。

*3:参考文献 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の分子メカニズム(PDF) 3頁に図があります。

*4:医療用の自己使用注射器の共用事例等があった。

*5:血液、深部臓器に病巣が発生します。周囲に白血球が無い、非常に特異的な状態の内臓組織となっています。 普通の症例では上気道で、一般的な症状は咽頭炎なのと対照的です。

*6:耐性はあまり出現していない。皆無ではないが。

*7:感染部位にあまり血管がなく、薬剤が効かなかったりする場合もあるようです。

*8:劇症型は早期対処が救命に関わるため、劇症型であるかを診断するのは非常に重要。

*9:高齢者で増加しているとみられる。