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良い機会なので、救急蘇生法のガイドラインを見返してみた。

こんな記事を見た。→ パスワード認証
この記事で紹介されているツイートでは、救急行為を妨害された、とある。下手をすれば、その行為自体が救命中の個人的法益に照らして、個人の命への脅威の気もするが、状況の明細が分からないので、そちらはコメントしない。今回は公的な内容として、一般的な内容に触れた記事にします。


私は、昔に救急蘇生法の講習を受けたが、若干知識が古くなっていたので、ガイドラインを読み返してみました。記事の中で AED 使用の際の、服切りの話題にも触れようと思います。


http://www.jlsa.jp/qq.html より、ガイドライン 2010 に準拠した内容です。実は変更されていて、胸部圧迫が強調された内容になってます。

呼吸確認は「見て・聞いて・感じて」が廃止された
これは簡略化よりも死戦期呼吸=心停止を見逃さないという方が大きい

胸骨圧迫最優先
ガイドライン2005までは「気道確保(A)―人工呼吸(B)―胸骨圧迫(C)」だったが胸骨圧迫が先になった

(一部略)

CPRを習熟していない市民救助者は人工呼吸はやらなくても良い
訓練を受けた救助者の場合でも人工呼吸の為の胸骨圧迫中断は最小にすべきとしている
ただし、小児や乳児は窒息の場合いが多く、溺水の場合と合わせて人工呼吸を優先する

http://www.jlsa.jp/qq.html

...やっぱり変わってました。以前の私の救急蘇生法では、気道確保および呼吸の「見て・聞いて・感じて」の確認、さらに人工呼吸の手順もありました。
しかし、今の手順では呼吸の確認は簡素化され、意識が無く、基本的に自発呼吸していないと認識した時点で、胸骨圧迫を開始する*1手順に変わっているのですね。さらに、人工呼吸を行うような場合でも、胸骨圧迫中断は最小限にすべき、と胸骨圧迫がかなり強調されています。要は心停止に対しての救命行為が非常に重要視されている、という事です。
要は人工呼吸で、肺から酸素を血液に取り入れようが、それが体に循環するためには、心臓の鼓動が必要なわけで、それが胸部圧迫の重要性にも繋がっているのかもしれません*2
詳しい手順は 一次救命処置(BLS) 日本救急医療財団ドラフト版(PDF形式) などを参考にしてください。
ちなみに、胸部圧迫の場合には肋骨の下半分なので、よほど体型が分からない服を着ていない限りは、着衣のままでも可能ですが、圧迫箇所に服の中に何かがある場合には、服をはだける必要がある場合もあります。かなり深く胸部圧迫を試みるため、何かあれば怪我の元になったり、圧迫行為の邪魔になってしまうからです。


さて、ここまでは胸部圧迫法、つまりは AED 到着前の話をしましたが、AED が到着したとします。なお、到着した際にも、直前までは可能なら胸部圧迫を続けている必要があります。
さて、ここで AED 稼働ということですが、まず電極の設置があり、ここで服を脱がせる必要が生じます。なぜならば、AED の電極は肌に接しなければならないからです。それで、救急時には悠長に服を脱がせてはいられないので、服を切る必要が生じます*3
救急のドラマで AED 機器の使用を再現したものに、その描写があるかは確認していないのですが、医療ドラマなどで、医師が現場で患者の服を切るような映像を見た事がある人もいるかもしれません。緊急時には時間が無いので、そういう行為もあり得ます。
ただし、ここで重要な事で、かつ、救急行為の総てに言える事なんですが、実は救急行為の総ては周囲に聞こえるような声で宣言しての行動になるんですね。というのは救助者に意識が無くても、周囲の呼びかけや、音などは聞こえている事がある、とされるのです。故に、例え無意識でも、救助者に話しかけての行為になります*4
ただし、大元のツイートでは、その声を聴いてなのか、行為を見ていたのか*5、邪魔が入ってます。
人手が無くて余裕が無い場合もありますが、この場合、野次馬などもありますので、そういう無理解者の妨害を防ぐために、現場の管理をする人を置くべきだったのでしょうね。
実際、一分一秒を争う場合に、こういう妨害が蘇生への致命傷になり得るので、講習の際にも、救命法に通じた人に手伝ってもらう、救命法を知らない人には、現場の野次馬を遠ざけるとかの分からなくてもできる仕事をやってもらう、とかで、現場の行為が迅速にできるように管理しましょう、という事は言われます。
ただ、常に人手がある訳ではないので、こういう妨害行為に直面してしまう可能性はあると思います。
しかし、私が現場で救命行為を行う場合は、AED 機器使用の際には、声でちゃんと宣言してから、躊躇なく服を切ると思います。妙な妨害に接したら、「その事で救命行為が停止するが、貴方はこの方が死んでもいいのか?」くらいは言うと思いますし、言って良い話です。生命が危機にさらされている訳ではない人は、勝手な事を言い始めたりしますが、救助者は今まさに、生命の危機、生きるか死ぬかの瀬戸際に居るのですから。


ところで、今の議論や、こういう考察は救急の現場で話されている訳ではありません。痴漢の連想をした人も、どうやら救命行為の手伝いをしていた訳ではないようです。あまり知る機会が多くない方が良いのですが、これは実際の救命行為をやっている人を知らんなあ、というのが素直な感想ですよ。
実際の救命行為中、相手の肌が露出しているかどうか、というのは救命行為に関する事としては意識しますが、いわゆる女性を鑑賞、みたいな余裕は救命行為中は全く存在しない、と断言できます。
以前、人工呼吸がそれなりにガイドラインで強調されていた頃、女性との人工呼吸に関して、妙な色付けをして話す向きがありましたけど、実際の救命行為を知ってれば、それがピント外れ、ってのは意識の違いとしてあるんですよね。
実際の人工呼吸は、相手からの感染症の恐怖とか、溺水の場合等には吐瀉物の気道閉塞の恐怖とか、体力勝負なので、長時間続けられない、とか、全然考察としては色っぽくない方向でしか、思いが浮かびません。そんな話をしだす人は、多分、救命行為の緊張感を、全然意識していない。
もし、相手が女性で、そういうロマン系の話をするのなら、相手が蘇生し、何の後遺症もなく*6、病院を退院した際に、相手が私の事を知った場合に、お礼を言ってくれるかもしれない、くらいの淡い話で。相手が何の問題もなく、健康体に戻ってくれない事*7には、そんな話題すら発生する事はありません。


救急蘇生法ってのは相手が無事に蘇生して、健康体に戻るのが最優先です。その視点が無い意見を言いだすのは、本人の生命が危機にさらされている自覚が無い、という事です。

*1:同時に AED機器を持ってくるように要請。

*2:実際に胸部圧迫がどのくらいの血液循環を促すかは良く知りませんので、そこら辺は医療機関の方に確認してください。

*3:服だけではなく、ブラジャーにはワイヤがあるため、AED 使用時には火傷を防ぐために外す必要があります。

*4:その事を知らないと、意識が無い人に何で声をかけているんだ、と思うかもしれませんが、そういう理由から、一方的であっても救助者には話しかけながらの救急行為になります。

*5:漫然と見ていて、行為を邪魔したのなら、その人は単なる野次馬と変わりません。いや、もっと悪いか。救命行為を妨害してる。

*6:これだって、普通に発生する。本人には重大な話。

*7:多くが蘇生せずに亡くなる、っていう事実もお忘れなく。