luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

H7N9(鳥インフルエンザ)のパンデミックの可能性と、細胞表皮のレセプターの話

今日は判決文をブログに載せる予定でしたが、国立感染症研究所の一般公開でインフルエンザの講演を聞いていて、インフルエンザの感染経路に興味を持ったので、ちょっと纏めてみました。なお、私は感染症研究者ではありませんので、単なるブログ記事であり、記載内容に正確は期しますが、医学的な知見を示すものでは無い事は申し添えておきます。


インフルエンザが感染する際に、細胞の内部に侵入し、細胞の構成物質を利用し、自己増殖をはかります。その際に、細胞の表面に存在する、シアル酸の構造が重要らしい。
ヒト感染を起こすインフルエンザが吸着するのは、α2,6型レセプターになります。
ちなみに、今までの H7N9 インフルエンザ・ウィルスは、このα2,6型レセプターではなく、α2,3型レセプターに吸着していたために、鳥では感染が広まってはいましたが、ヒトに感染することは無かったのですが、どうも 日本小児科学会インフルエンザ対策ワーキンググループ (2013年7月5日) などを読むと、最近α2,6型レセプターへの吸着能力も獲得したらしい。

今回のA(H7N9)はすでに図2のようにヒト型レセプター(α2,6)を認識する能力を持っています。

http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/influenza_130730_1.pdf

つまりは、既にヒトに感染する能力自体は持っているのです。ただし、何らかの理由により、ヒト-ヒト感染や、鳥-ヒト感染は、かなり濃厚な接触を起こしていないと感染しない状況にある模様です。
ちなみに、H5N1もα2,3型レセプターに吸着する鳥インフルエンザです。
人間も、実はα2,3型レセプターもあり、それは肺の奥にあるという知見があります。A型インフルエンザウイルスと糖鎖:ウイルスレクチンの特性 より。

終末細気管支と呼吸細気管支の間にあるクララ細胞と肺胞II型細胞には、α2,3結合型のシアロ糖鎖が分布していることが判明した*1

http://www.glycoforum.gr.jp/science/glycomicrobiology/GM08/GM08J.html

という事は、例えα2,3結合型としか吸着能力を持たなくても、肺の奥まで到達するような事態が発生*2すれば、ヒトにも感染するということですね。過去の鳥インフルエンザのヒト感染は、そういう事態だったのかも知れません。
とは言え、インフルエンザ・ウィルスの特徴として、変異が起きやすい事、また、異なる株間で、部位の混じり合いが起きやすい性質があると言われています。となると、鳥インフルエンザに罹患した人間の体内で、ヒト・インフルエンザと混じり合う事態になれば、ヒト感染を起こす鳥インフルエンザが生まれる可能性もあります。
勿論、そうそう都合よく危険なウィルスが生まれる可能性は、今までに発生していない事から確率的に高いわけではないと予想*3されますし、宿主を殺してしまうような危険なウィルスは、ウィルスの戦略的にも優位に働かない*4ので、そうそうに危険な事態ばかりが発生する、とも決まってはいないのですが。

*1:cf. Avian flu: influenza virus receptors in the human airway.

*2:それは、例えば鳥と濃厚に接触するような事態では、起き易いのかもしれません。

*3:勿論、確率的にゼロではないので、未来永劫発生しない、とも言えないのではあるが。

*4:ウィルスとしては宿主での症状は、ウィルス増加の際の副次的な反応であって、ウィルスは自己増加が目的です。なので、宿主を殺すような危険な性質は、ウィルスの増殖には有利には働かない。