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判例 平成27(ワ)18469、損害賠償等請求事件 平成28年4月28日東京地裁判決(未確定)

いわゆる、EM関連の報道に関する、著作権に対する内容が争われた判決文です。
既に、原告が控訴したことが伝えらているので、まだ係争中であり未確定ですが、現状を良く知る参考になると思われるので、記載します。
平成27(ワ)18469、損害賠償等請求事件 平成28年4月28日東京地裁判決

事件番号 平成27(ワ)18469
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成28年4月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
全文 全文
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85863

下記は 私が判決文(PDF)をテキスト文書化し、編集し直したものです。

平成28年4月28日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成27年(ワ)第18469号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年3月22日


判決


原告 A
   同訴訟代理人弁護士 松村光晃
    中村秀一
    屋宮昇太
被告 株式会社朝日新聞社
   同訴訟代理人弁護士 秋山幹男
    秋山 淳


主文


原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。


事実及び理由


第1 請求
1 被告は,原告に対し,352万円及びこれに対する平成24年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,別紙謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を,被告発行の朝日新聞青森版に別紙掲載条件記載のとおりの条件で1回掲載せよ。


第2 事案の概要
本件は,原告が,新聞社である被告に対し,被告が発行する新聞の記事に原告の執筆したブログの一部を引用したことが原告の複製権(著作権法21条)及び同一性保持権(同法20条)の侵害に当たるとともに,原告を取材せずに記事を掲載した行為が不法行為に当たると主張して,?民法709条に基づく損害賠償金352万円及びこれに対する最終の不法行為の日である平成24年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,?著作権法115条及び人格権に基づく名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める事案である。


1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は,琉球大学名誉教授であり,有用微生物群(EM)の研究者である。
  被告は,朝日新聞の発刊等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,「新・夢に生きる」と題するインターネット上のブログに記事を連載している。同ブログの平成19年10月1日付けの記事中には,別紙対照表「原告のブログ記事」欄の記載(以下「本件原告記載」という。)がある。
(3) 被告は,朝日新聞青森版において,平成24年7月3日付けで「EM菌効果『疑問』検証せぬまま授業」と題する記事(以下「本件記事1」という。)を,同月11日付けで「科学的効果疑問のEM菌 3町が町民に奨励」と題する記事(以下「本件記事2」という。)をそれぞれ掲載した。本件記事1及び2は原告を取材せずに作成されたものであるところ,これらの記事中には別紙対照表「本件記事1」及び「本件記事2」欄の各記載(以下,それぞれを「本件被告記載1」,「本件被告記載2」という。)がある。
(4) 被告は,記者が自らの行動を判断する際の指針として「朝日新聞記者行動基準」を定めており,これ(本件記事1及び2掲載当時のもの)によれば「記事で批判の対象とする可能性がある当事者に対しては,極力,直接会って取材する」ものとされている。(乙1)


2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件被告記載1及び2が原告の複製権又は同一性保持権を侵害するか
(原告の主張)
本件原告記載は,EMを使用して発生した現象に関する科学的プロセスが必ずしも明確でない場合に限定し,そのような現象が発生するに至る科学的プロセスに関する説明の一つとして「縦波の重力波」が想定し得るとの考え方を,できる限りコンパクトに伝えるために工夫を凝らしたものであり,原告の個性が表現されているから,著作物に当たる。
そして,本件被告記載1及び2は,本件原告記載の「B先生が確認した」,「縦波の」との文言を削除して原告の意に反する改変を加えた上で,出典を明示せずに無断で引用したものであり,報道の目的上正当なものともいえないから,原告の複製権(著作権法21条)及び同一性保持権(同法20条)を侵害する。
(被告の主張)
本件記事1及び2は,本件原告記載を含むブログの記事等を参考にして,EMに関する原告の見解を紹介し,報道したものであるところ,本件原告記載は,EMの本質的な効果を短文で端的に記載したものであり,かつ,原告が想定する事実を記載したものにすぎないから,著作物性は認められない。したがって,本件被告記載1及び2は原告の複製権及び同一性保持権を侵害しない。
また,仮に複製に当たるとしても,本件被告記載1及び2は,時事の事件報道において,当該事件を構成するものを,報道の目的上正当な範囲において複製し,当該事件報道に伴って利用したものであるので,著作権法41条により許された利用に当たる。


(2) 原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行為が不法行為に当たるか
(原告の主張)
記事にかぎ括弧が用いられるのは,取材相手に直接取材して得たコメントを掲載する場合や書物,講演等からの引用の場合であり,引用の場合には引用元や出典が明示されるのが通常であって,これらが明示されていなければ,取材相手に直接取材して得たコメントであると認識されるのが通常である。そして,本件記事1及び2における原告のコメント部分(本件被告記載1及び2)はかぎ括弧が用いられているが,引用元や出典が明示されていないから,一般読者は本件記事1及び2を被告が原告を取材して得たコメントを掲載した記事として読むことになる。しかし,実際には,被告は原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した。また,本件記事1及び2において批判の対象となっている原告を取材しなかったことは,被告が作成し,公表している「朝日新聞記者行動基準」に定められた取材方法に違反する。
本件記事1及び2における原告のコメント部分は記事掲載時より5年も前のブログの内容を引用したものであり,原告は引用されることを全く予期していなかったし,仮に原告が取材を受けて水質浄化という場面に限定して説明を求められていれば,「重力波」や「波動」を用いた説明でなく,別の表現で一般読者に分かりやすい説明を加えることができたから,被告が原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載したことによって,自らの意思に反してコメントをねつ造されない人格的利益が侵害された。
以上によれば,被告が原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行為は不法行為に当たる。
(被告の主張)
本件記事1及び2における原告のコメント部分はかぎ括弧に続けて「・・・と主張する」又は「・・・と説明する」と記載されているが,一般読者の普通の読み方を基準として判断した場合には,上記原告のコメント部分が原告に対して直接取材して得られたものであると認識されることはない。また,被告の「朝日新聞記者行動基準」は記者が自らの行動を判断する際の指針を定めたものであるから,同基準に違反した行為があったとしてもその行為は不法行為とならない。さらに,原告は,平成27年の時点においてもEMの本質的効果は重力波によるものであると述べており,水質浄化や農地改良の効果が重力波によるものでないとはしていない。
以上によれば,被告が原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行為は不法行為に当たらない。


(3) 著作権法115条及び人格権に基づく名誉回復措置請求の当否
(原告の主張)
前記(1)及び(2)(原告の主張)のとおり,被告は原告の著作者人格権及び人格権を侵害したから,原告は,被告に対し,著作権法115条及び人格権に基づく名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めることができる。
(被告の主張)
争う。


(4)損害額
(原告の主張)
原告は,被告の行為により,以下の合計352万円の損害を被った。
ア 複製権侵害に基づく無形損害 10万円
イ 同一性保持権侵害に基づく慰謝料 10万円
ウ 原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載したという不法行為に基づく慰謝料及び無形損害 300万円
エ 弁護士費用相当額の損害 32万円
(被告の主張)
争う。


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件被告記載1及び2が原告の複製権又は同一性保持権を侵害するか)について
原告は被告による本件被告記載1及び2が本件原告記載に係る原告の複製権等を侵害すると主張するので,以下検討する。
著作権法において保護の対象となるのは思想又は感情を創作的に表現したものであり(同法2条1項1号参照),思想や感情そのものではない。本件において本件原告記載と本件被告記載1及び2が表現上共通するのは「重力波と想定される」「波動による(もの)」との部分のみであるが,この部分はEMの効果に関する原告の学術的見解を簡潔に示したものであり,原告の思想そのものということができるから,著作権法において保護の対象となる著作物に当たらないと解するのが相当である。
したがって,被告による複製権侵害を認めることはできず,また,これを前提とする同一性保持権侵害の主張も採用することができない。


2 争点(2)(原告を取材せずに本件記事1及び2を掲載した行為が不法行為に当たるか)について
(1) 原告は,被告が原告を取材していないにもかかわらずあたかも原告を取材して得たコメントを掲載したと読まれる記事(本件記事1及び2)を掲載した行為が不法行為に当たる旨主張する。
(2) そこで判断するに,本件被告記載1及び2は,「重力波と想定される波動による(もの)」との原告の見解をかぎ括弧内に記載した上,これに続けて,「と主張する」又は「と説明する」と記載したものであるが,かぎ括弧は発言内容を示し,又は他の文献等の記載を引用する場合の表記方法として用いられることからすれば,これに接した一般の新聞読者の普通の注意力に照らすと,本件記事1及び2は被告が原告を取材して得られたコメントを掲載した記事として読まれる可能性があるというべきである。また,本件記事1及び2はEMの科学的効果が疑問と指摘されていることを報道するものであり(甲1,2),EMの効果を説く原告を批判の対象としているとみることができるから,被告の上記行為は被告が作成し,公表している「朝日新聞記者行動基準」(乙1)が規定する取材方法(「出来事の現場を踏み,当事者に直接会って取材することを基本とする。特に,記事で批判の対象とする可能性がある当事者に対しては,極力,直接会って取材する。」)に抵触しかねない行為であったと考えられる。
しかし,上記基準は記者が自らの行動を判断する際の指針として被告社内で定められたものであり(乙1),これに反したとしても直ちに第三者との関係で不法行為としての違法性を帯びるものでない。これに加え,本件記事1及び2における原告のコメント部分(本件被告記載1及び2)は,公にされていた本件原告記事を参考にして執筆されたものであって,その内容はEMの本質的効果に関する原告の見解に反するものではないと認められる(甲6,7,乙2,3,4の1・2)。そうすると,本件記事1及び2によって原告の見解が誤って報道されたとは認められず,したがって,これにより原告が実質的な損害を被ったとみることもできない。
以上を総合すると,被告が原告を取材せずに,また,本件原告記事を参考にするに当たり出典を明記せずに本件記事1及び2を掲載した行為は不適切であったということができるとしても,不法行為と評価すべき違法性があったとはいえないと判断するのが相当である。
(3) したがって,被告の上記行為が不法行為に当たる旨をいう原告の上記主張は採用することができない。


3 結論
以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。


東京地方裁判所民事第46部


裁判長裁判官 長谷川 浩 二


   裁判官 藤原典子


   裁判官 中嶋邦人