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裁判の結果に関わらず、悪手だとおもいます。「社員をうつ病に」社労士の提訴

「社員をうつ病に」社労士、処分取り消しと賠償求め提訴:朝日新聞デジタル

訴状で男性側は、弁明の機会だった理事会の開催連絡が4日前と直前で、本人や弁護士が出席できなかったといい、「処分は弁明の機会が与えられないまま行われており違法」と主張している。また、ブログの内容も「必ずしも悪質とは言えず、処分は裁量権の逸脱だ」などと訴え、処分の取り消しを求めた。

http://www.asahi.com/articles/ASJ6N4S9VJ6NOIPE018.html

争点は「理事会の開催連絡が来たのが、4日前のため、本人や弁護士が出席できなかった」「処分は裁量権の逸脱」とのようです。
裁判ですので、争点に関して各書証が提出され、弁論が行われ、裁決が下ります。争点を見る限り、処分を取り消しできるほどの主張としては弱いような気もしますが、裁判ですので主張によては勝訴になる場合もあるかも知れません*1


この方は国へも懲戒処分を不服に提訴されているようです。
具体的には「社会保険労務士懲戒処分公告」に記載がありますが、厚生労働省が管轄ですので、国が認めている資格業への懲戒処分は広く公知されるので、実際の処分内容も読むことが出来ます。
社会保険労務士懲戒処分公告 |厚生労働省


国は資格業に関して、資格を利用しての業務を専任的に認めています。
具体的にはその業務で報酬を受け取ることを可能とし、資格を持たない人にはその業務を不可としているのです。例えば、弁護士法72条。

   第九章 法律事務の取扱いに関する取締り

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条  弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO205.html

このため、その業務に関して不適切な行動があった場合には、こうやって懲戒処分を決定*2し、それのみではなく、それが起きたことを公益故に、公告している訳です。
これは処分の一部を成していて、「懲戒処分があった資格者であるかどうか」というのは、利用者側の懸念にもなり得ますので、処分自体の告知を行い、国が保証している業務として、その業務への適性の管理も行っていますよ、という姿勢を示している訳です。
社会保険労務士に限らず、総ての士族は処分内容を、上記のように告知されます。引用文はネットですが、実際には官報などにも記載されて、公告されます。これが懲戒処分です。


さて、事件は広く話題になりましたし、色々なところで未だに話題にもされますし、こうやって処分も行われた訳ですが、ここまでで終わっていれば、それなりの一定期間、人の記憶に留まり続けたにせよ、処分を受け、ゆっくりと記憶から薄まって行ったかもしれません。
しかし、本提訴によって、再度話題となり、そして、処分不服の主張から、元々の主張を誤りとは思っていなかったのだ、という見方が人々に広まる事になります。
つまり、提訴によって、本人の本質にそういった主張がある事が、本人自身によって、大きく喧伝されるわけです*3。ですから、本人が引き起こした提訴によって、今度、人々の記憶に、長く留まり続ける事になります。
そして、そのイメージは、本人に留まらず、本人と契約する企業にも及ぶでしょう。企業は、そういう手段をとりうる企業である、という主張を否定できなくなります。


そうした事態を引き越す故に、私は提訴を悪手だと見ます。
裁判は権利を勝ち取るための手段ですが、どんな場合にも、それが本人に有効に働くとは限りません。裁判によって失うものも多いので、そのバランスで考える方が良いのではないかと思います。
本件に関しては、裁判にたとえ勝ったとしても、それで失うものの方がはるかに大きいと思います。...勿論、本人が提訴するのであれば「勝手にしたら?」と、思いますが。

*1:まあ、トドメに完全敗訴になってしまう可能性もありますが。

*2:士族の中で、弁護士だけが書士会が処分決定権を持っています。それ以外は、総て管轄省庁。

*3:イメージダウンを本人自身がやるとは、なかなか珍しい事例です。