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タミフル耐性菌に関する情報(A/H1N1-pdm(2009))

何か、マスコミの報道で、科学情報系が不明瞭な報道があるらしいので、説明情報を掲載。


まず、現在のウィルスの系統情報です。(国立感染症研究所へのリンクです。)

ちなみに、現在のインフルエンザ・ウィルスは、ほとんど、A/H1N1-pdm(2009)ですが、最近のウィルスの分化系統図はこちら。(国立感染症研究所)
図の中で、 @ がついてるのが、タミフル耐性です。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/357/graph/df35715.gif
で、どういう事かといいますと、インフルエンザ・ウィルスの遺伝子情報の中で、H275Y ってのがあります。これが、タミフル耐性のマーカーと呼ばれるものでして、これを持つウィルスが、タミフル耐性を持ちます。
図を良く見ると、岩手とか、徳島とか、耐性菌が発見された場所の記述が見えますね。それがそういう遺伝子情報を持った、インフルエンザ・ウィルスです。*1


最初の A/H1N1-pdm(2009) の段階では、H275Y って情報は、ウィルスの遺伝子情報の中には発現していなかったんですね。よって、タミフルは効いていました。
しかし、インフルエンザ・ウィルスは、時々、変異を起こします。どのくらいの頻度かというのは一概に言い難いのですが、まあ、時々ね。で、通常の状態では、この H275Y って情報は発現しても、発現しない方のウィルスの方が通常は増殖スピード等で有利なので、発現しないウィルスの方が優勢になるんですよね。
ちなみに、発現自体のメカニズムには、タミフル自体はなんら関与しません。関与するのは発現した後です。
さて、タミフルを使用しない状態では、耐性を持たないウィルスの方が優勢です。
しかし、この状態でタミフルを使用しないと、発病しても治療が適切に行えません。使用しないと、重篤な状態を引き起こすかもしれませんし、実際引き起こしています。
そのため、タミフルを使用します。
さて、そうすると、どうなるかというと、タミフル耐性を持たない、インフルエンザ・ウィルスは、タミフルによって根絶されてしまいます。まあ、殺されるということですね。
そうすると、どうなるかというと、今まで優勢じゃなかった、タミフル耐性を持つインフルエンザ・ウィルスが、今度は優勢になってくる訳です(ライバルがタミフルでいなくなるので)。そして、タミフル耐性を持たないウィルスを抑え、今度は耐性を持つ方が優勢になります。そして、発見される訳です。「タミフル耐性菌発見!」ってね。
まあ、タミフルを使用すればするほど、タミフル耐性菌の方が有利になっていくので、使えば使うほど、耐性菌の方が増えていきます。発現確率とか、増殖のペース計算が細かく行えないので、大雑把な表現しかできませんが、長く使い続けると、耐性菌の有利化が進み、ついにはほとんどが耐性菌ということになります。


報道では、発現自体のメカニズムに、タミフルが関与しているような表現がある、という話を聞きました。しかし、そういう事はありません。実際には、タミフルを使うと耐性菌の方が有利なので、突然変異で耐性菌が出たときに、(今まで抑えられて表に出てこられなかったのが)表に出てくる、という事になります。


下記に各株の分析内容へのリンクを。なお、各耐性菌についての記載もあります。
IASR 30-11 インフルエンザウイルス, AH1pdm, 抗原解析, 遺伝子解析, オセルタミビル耐性株, インフルエンザワクチン株



[written by luckdragon2009 / 2009/11/21 22:30]

*1:ヒト - ヒト 感染は、まだ確認されていません。